ラッキー(3)

 その時なぜか私は道徳の教科書を手に取った。立ち上がり、桜色の手紙を丁寧に机に置き、道徳の教科書を読んだ。

 道徳の教科書にはいじめの話やら障害の話、夢の話がたくさん載っていた。その話の中の人はみんな運がいいとしか思えなかったし今読み返してもそう思う。でも、とある話に出てくる一人の男の子が目に留まった。その男の子はお世辞にも運がいいとは言えなかった。むしろ私より不運なんじゃないかとも思った。

 

 私はその男の子に恋をした。

 

 お母さんが蒸発してから何十年か経った今も私は、その男の子に恋をし続けている。あれから本を読むのが好きになり作家という職業についた。今はそこそこ名が売れている。運がいいというのは不運との隣り合わせだと今なら思う。実際、いつまでも燃やされることのない男の子はずっと不運でずっと運がいいのだ。あの教科書は大切にしまっている。桜色の栞とともに。

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