ラッキー(2)

次の日、お母さんは珍しく朝ごはんを作ってくれた(いつもはパンを食べている)。昨日のことを申し訳ないと思ったのか、将又気分が良かったのか。どっちにしろ私は嬉しかった。道徳の教科書を忘れて学校へ行ってしまうほどに。

 

 学校から帰ってくると晩御飯が置いてあった。お母さんは心底気分がいいのだと思い私の気分も良くなった。不運というのは気のせいだったのかもしれない。今日は道徳の教科書を忘れてしまったが、先生のお客さんがきて授業は自習になった。なんだ、むしろ運がいいのかもしれない。そう思った瞬間、晩御飯の横に桜色の紙が置いてあることに気がついた。私は、桜色の紙を裏返した。

 

「さよなら。」


それだけだった。息がうまくできない。体の穴という穴からナミダが溢れ出る。やっぱり私には運がない。運がないんだ。溢れ出る思いを、ナミダを、止めたかった。一瞬でも運がいいなんて期待してしまった自分が情けない。目の前がゆらゆらし、何かにつまずいた私はバランスを崩して床に倒れた。

 倒れた先にあったのは道徳の教科書だった。

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