ラッキー(1)

 ずっと、運が無かった。

 自覚したのは最近なのだけれど。お母さんに、あんたのお父さんは悪魔に魂を売ったのよ(お母さんはこういう言い方をした)と言われた。中学生の思春期真っ盛りの私に言わなくてもいいのにと思ったが、お酒の空き缶を見て何も言わなかった。もちろん薄々は感づいてはいた。お母さんの指には銀色の輪っかがはまってるのなんて見たこと無かったし、お父さんの写真も見たことがない。それだけで死別とか円満離婚、海外出張などといったことではないと思っていた。でもいざ聞くと冷や汗が止まらなかった。悪魔に魂を売った?そんないろんなことを想像してしまう言い方をしないで!と頭のなかでぐるぐるする。あぁ不運なんだと思ってしまう。運があればお父さんは悪魔に魂を売らなくて済んだんじゃないかとか考えて眠れない。

 運があれば、段差で転ぶこともなかったし、給食費泥棒の濡れ衣を着せられることもなかったし、学校のマドンナであるサヤちゃんの機嫌を損ねなかったかもしれない。運が全てなんだ。不運なのだ。私の人生は。




 

 

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