第2話

怒りをあらわにして睨みつけているわけではない。


相手を威嚇しようとして意図的に怖い目をしているわけでもない。


そんなものとはまるで次元が違っていた。


世間においてはよく、いっちゃっている目だとか、殺意しか感じられない目といった表現をするが、それすらも可愛らしく思えてしまうような目。


自分の生命の危機を全身で感じ取ってしまう目。


絶対に間違いなく殺されると確信してしまうような目。


その男の目は、そんな目だったのだ。


――ひええええっ!


俺は動くことが出来なかった。


全ての筋肉が硬直してその機能を失っていた。


身体じゅうから粘っこい汗をかき、ハンドルを両手で掴んだままただ男を見ていた。


男が俺の車のすぐ前に立った。


すると男はぷいと振り返り、自分のバンへと戻って行った。


そして何事もなかったかのように車に乗り込むと、そのまま車を走らせた。


――助かった……のか?


なにやら甲高い音が連続して聞こえてくる。


それが後続の車が鳴らすクラクションであると俺が気付くまでに、しばらくの時間を要した。



 柏田の場合。


あたいが片道一車線の県道を走っていると、黒いバンが後ろについた。

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