第4話 あえぎ

単調な毎日、日々の仕事だが、総務課へ向かう午後15時が、俺の楽しみとなっていた。


しかし、この3日ほどは出張で、事務職のKさんとは会えなかった。水曜日の夜に帰宅して、いつもの作業を済ませ、1日休んで金曜日。


この木曜日に、出張先で震災があった。幸い自分は巻き込まれなかったが、余震でその日も交通ルートが大幅に乱れてしまっていた。震災直後、携帯に固定電話から着信が鳴った。


「総務課長です、被災地行きで出張申請を出された職員の方に安否確認の連絡をしております」


既に帰宅済みであることを伝え、電話を切った。


その次の週の月曜日。総務課へ行くためのエレベーターを待っていると、Kさんが隣に現れた。無言のまま、並んでエレベーターに乗り込んだ。2人きりになった。


妄想せずには、居られない…


-Kさんに言ってみる。-


俺は前から知ってましたよ、あなたのこと。

…いや、違うな。


俺、実はあなたのファンです。

…というほどでも、なかったんだよな。


秘密をばらされたくなかったら。

…脅しか!?


残念ながら、途中の階で止まったエレベーターに人が乗り込み、寿司詰め状態。


Kさんと距離が近づいた。壁ドンってほど、至近距離に彼女が居る。


でも、俺は顔を上げることが出来なかった。息って、吸って良いのか?吐いて良いのか?


あの、香り…、のはずはなく、Kさんからは香水のような、女っぽい匂いがした。


臭い、俺は臭いが、興奮するが… コレがKさんの香りか。頭皮の匂いとか嗅げたら。


うっ、あー、ヤバイ… おっきくなってきた。


Kさんは総務課へ行こうと向かっていたので、当然、同じフロアでエレベーターを降りた。


右に曲がるだけの道を、極度の緊張状態にあった俺は不自然なほど直角に歩いてしまった。うわ、何やってんだ。


おかしな行動してるって事は、百も承知!でもズボン越しのモノに気付かれたら、もっとおかしな奴になってしまう。


Kさんはすぐ右に曲がったので、俺より前に居る。冷静になるにはこの距離が丁度良い。


俺は普段よりずっと、ゆっくり歩いていたつもりだが、エレベーターからの距離が近すぎた。Kさんはまだ総務課のドアの前に居る。


言葉がない。意識すればするほど、苦手な人の扱いと同じようになってしまう。動揺が隠せない。


Kさんは、俺の方に振り返った。


ンガッ ウゲゲ、セクハラで訴えられるか?


「先日は大丈夫でしたか?」

・・・・・???


Kさんが、俺に声をかけてきた。


「あの、出張先で交通に影響があったこと。」

・・・・・。


「えーっと、ごめんなさい、何も、無かったなら。余計な発言でしたね」


「総務課の皆で心配していたんです、ご無事で何よりでした」


『いや、余震で電車が止まって、影響があったんです!』


あの日の状況を説明しようとすると、Kさんは総務課長に声をかけ、話す相手が変わっていた。


まさか彼女に話しかけられるなんて思わなかったから、説明も適当に雑用を済ませ、慌ててその場から立ち去った。


今日はさっさと帰ろう。余韻を味わい、ウキウキしてきたぞ俺。


牛丼を食べ済ませ、自宅に帰り、シャワーをサッサと浴びて、髪も濡れたままに椅子に座った。


パソコンやスマホを観ながらの横臥スタイルは疲れる。両手塞がるから、俺はモニターで見たい派なのだ。


その日は買っておいたDVDを観ながら、2回ほど抜いた。週始めなのは分かっているけど、あの香り、匂いから臭い… Kさんを思い出していたかった。


お蔵入りから極上作品に格上げされ、何度も観たKさんの映像。


…Kさん、鼠径部にほくろあるんだな。


ほとんど上半身しか見られない昼間と違って、家に帰ればTバック姿のKさんが観られる。


Kさんの声が、俺の頭に響く。


台詞で聞くよりも実際の声は明るくて、夜のKさんが囁く言葉に飽きた俺は、昼のKさんのトーンで呟く、厭らしい言葉を何度も妄想した。


ホクロ、舐めて…


ダメよ。良いと言うまで、このホクロを舐め続けなさい。


嗅ぎたいの?


味わいたいの?


舐めなさい…


舐めて、舐めて、私を濡らしなさい…





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