8章 修行 草むしり編

「ほら、早く草むしりをしなさい」

 朱ノ助たち4人は今、庄屋さんの畑仕事を手伝っている。

 夏の草は地中深くまで潜り込んでおり草を引っこ抜くのが大変だった。また黄色と黒い、まだら色のクモがところどころ巣を作っており、ときどき巣にひっかかっては慌てて振り払った。いっぺんなんかは顔にクモがひっついて文字どおり飛びあがった。手でクモを引きはがす。クモは足早に草むらへと逃げていった。

 たまらなくなって朱ノ助は叫ぶ。

「もういやだよ。こんな仕事! おれは剣術を習いたいんだよ。いやじゃ、いやじゃ。暑いし」

 昌之助はきゅうりをもいでは籠に入れる。昌之助の額からは汗が流れ落ちている。朱ノ助は必死の形相で昌之助を見つめている。しばらくして作業を終えた昌之助が、どっこらしょ、と重い腰を上げる。そしてうーんと大きな伸びをした。そして太陽のような満面の笑顔で、朱ノ助にこう言う。

「畑仕事は地面がでこぼこしているから足腰の負担が大きいんだよ。だから逆に言えば畑仕事をすることによって強い足腰を作っているんじゃないかな」

「そんなもんなのか?」

「そうだよ。だから仕事、仕事!」

 鼻水太はほけーっときゅうりの実がなっているところを眺めている。そうして紙になにか書きこんでいる。朱ノ助が後ろからのぞきこむ。

「何書いているんだ?」

 鼻水太がうんと言って見せてくれる。それは、ぐちゃぐちゃの紙に書かれたきゅうりの絵だった。なんていうか下手くそな絵であったがほっとするイラストだった。

 昌之助がぽつんと言う。

「下手だな」

 朱ノ助もうなずく。

「そうだな」

 でも・・・・・・。

「でも、ほっとするな」

 鼻水太は目の辺りをごしごしとこする。土が目の辺りにこびりつく。そして、絞り出すように、

「ありがとう」

 と呟いた。

 そこへ判十郎がやってきた。

「お前ら、何さぼっているんだ~。こっちも手伝え。トウモロコシけっこう重いんだよ」 

その時、三バカは、おのおの慌てて、

「すみませ~ん。今手伝います」

 それからは仕事をきちんと行った。熱射病、熱中症にならないように水飲み休憩などを適宜取った。

 ともかく暑いし、腰が痛いし、飛び出してくる虫が気持ち悪い。必死になって仕事をする。昼休憩には庄屋さん宅の井戸水で、きんきん、に冷やしたうどんが出た。庄屋さんが言う。

「さあ、判十郎さんに、朱ノ助に鼻水太、昌之助、いっぱいうどんを食べなさい。十人前は作っているから無くなることはないよ」

「は~い」

「いただきます」

 というと、4人とも何も言わずにうどんをすすり続けた。とにかく飢餓状態であった。必死になってうどんを胃のなかにぶち込む。

 庄屋のおじさんは続ける。

「これからしばらく太陽が真上に来るから、今働いたらぶっ倒れてしまう」

「はい」

「だから、陽が傾くまで少しここで休んでいなさい」

 庄屋さんのその言葉を聞いて安心した。

「ありがとうございます」

 4人はうどんを食べ終わるとそこにごろ寝をしたかと思うと、一人また一人と夢の中へと落ちていった。夢の中でまた布団にもぐりこんで眠っていた頃、

「さあ、そろそろ起きろ!」

 へっ、と朱ノ助が夢の世界から現実に引き戻される。

「さあもう一踏ん張りしよう」

 起きると風が良い具合に吹いていて気持ちよかった。陽差しも気持やわらいでいる。

「うん。頑張る」

 それから黙々と仕事をし続けた。カラスがカー カー カーと鳴き始める。虫の鳴き声が響き始める。

 鼻水太が太陽の沈むほうを指さす。

「すごいね」

 朱ノ助も沈む太陽を眺める。入道雲が赤く染まっている。カラスが木造の家に停まりしきりにカー カー カーと鳴いている。虫のリーリーリーとかの羽を振るわす音も聞こえる。 まるで昔、ばあちゃんから聞いた童話の世界だった。

 ぺたんとそこに座りこむと、身体を吹き抜ける風に身を任せながら、しばらく太陽の沈む様子を眺めていたとさ。

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