第6話 修行始まり編
「修行っても何やっていいんだろう」
鼻水太があんこもちを食いながらつぶやく。
「そうだよなあ、ただ、木刀振っていても強くなれねえし」
昌之助は最近親から買ってもらったそろばんをぱちぱちといじくっている。
「このそろばんだってどうやって使ったらいいのかさっぱりわからん」
朱ノ助がそろばんを手に取る。
「そういやこの、そろばんっていうのか、どうやって手に入れたんだよ」
昌之助が、へへっ、と鼻をこすると自慢げにいう。
「父ちゃんと母ちゃんと野菜の塩漬けを売りに行った帰りに買ってもらったんだよ。これからの時代は算術だってね」
二人が、ぶーぶー、と抗議の声をあげる。
「いいな。この金持ち、め」
「言っていろ」
「でもさ、全然わからん」
三人は「そうだよな」と嘆く。
朱ノ助は草むらにごろりと寝そべる。
「やっぱり寺子屋に行きてえなあ」
三人はそろって
「はあ〜」とため息をついた。
バカ三人衆はそのまま村をぶらぶらと歩いていた。畑になっているトマトをもいで口いっぱいにほおばりながら。いつの間にか道に迷ってしまう。しばらく行くととあるお屋敷の庭先に居た。
「ここどこだ?」
「このお屋敷は庄屋様のお屋敷じゃ」
「そっかあ、庄屋様か……」
昌之助はお屋敷を見上げている。
「それにしてもでっかいお屋敷だな。いいよな」
朱ノ助は、ぺっ、とつばを吐いて、言う。
「いつかおらたちも住むんだよ。いやもっとでっかいお屋敷に住んでやるさ」
昌之助と鼻水太は大笑いする。
「また朱ノ助の大ほら吹きが始まったぞ」
「最初はみんな大ほら吹きから始まんだよ」
「へえ、じゃあ有名になった大ほら吹き教えてくれ。俺バカじゃから分かんねえ」
鼻水太がニヤニヤしながら言う。
「そりゃ、おれたちバカ三人衆だぜ。後の世にかの有名な大ほら吹きがいたそうなってなるんだよ」
鼻水太と昌之助は、ふん、と小ばかにしたように笑う。
「そんなに人生うまく行きゃみんな大金持ちになっているさ」
その時であった。中年の女の人の怒鳴り声が聞こえた。
「このごくつぶし侍。草むしり全然終わってないじゃないの。さっさと草むしれ、金出さないよ!」
「そりゃ困るよ」
しわがれた哀愁のこもった声が聞こえた。もしやこの声は? 朱ノ助が庭先に飛び出る。するとあの侍、伴十郎が地べたにはいつくばって草むしりをしていた。
「伴十郎、何やってんの」
伴十郎の身体が一瞬、びくり、とする。そして伴十郎がこちらを見る。
「何じゃ、いつぞやのガキか……」
「ガキじゃねぇやい。朱ノ助って名前があらあ」
「やっぱりガキじゃあねえか。しっしっ。今立て込んでいるんだから、また後でな」
伴十郎は手でしっしっとやる。
「立て込んでいるってただの草むしりじゃないか」
伴十郎は顔を真っ赤にして顔をうつむかせる。しばらくそうしていたが、
「そういやお前たち、俺に稽古つけて欲しいって言っていたな」
「うん。言ってる」
伴十郎は思いきりニコリと笑うと言った。
「今日からお前たちは俺の一番弟子だ」
「えっ一番弟子って」
「だから弟子にしてやるって言ってるだろうが」
「お金は?」
「そりゃこれでさ」
伴十郎は草を指さした。
「これからお前たちは草むしりや店の売り子などや、掃除、野菜、田植えなどを手伝って銭を得る。そして俺に金を払う。そしたら俺がお前たちに稽古をつけてやる。いい考えじゃないか」
「うへえ」
「それにな、掃除や草むしりなどは剣の修行にもなるんだよ」
「そ、そうなのか」
三人は感心してしまう。
「じゃあ、ここの草むしりお願いな。終わったら俺にちゃんと金を持って来いよ」
そのまますたこらと伴十郎は行ってしまった。
「なんか騙された気分」
「そうだな」
朱ノ助が草むしりを始める。
「まあ、俺たちバカだからよく考えても分からねえよ。とりあえず剣を教えてもらえるんだったら何でもするぜ」
「俺もそろばん教えてもらえるんだったら」
そうして三人は草をむしり始めた。
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