第9話「老師オードの死」

 殿堂の奥深くは、この暑い地方には存在しないはずのありとあらゆる地方の美しい花々が咲き誇っていた。そこはまるで夢のような別天地だった。

 周りを石畳の渡り廊下が囲んでいるそこはどうやら中庭らしかった。オードとジュークは、そんな噎せ返るような花の香りの中を静かに歩いていた。

「あそこですじゃ」

 花咲き乱れる庭の中央に六角形の祠のような建物がポツンと立っていた。

 ジュークはオードの指さすその祠を見つめる。

 暑いはずのこの場所なのに何故か涼しく彼には感じられた。霊気が漂っているのだろうか。ジュークは微かに首を振った。

 なぜならそれは、禍々しいものではなく安らかさを感じさせ、ひんやりと気持ちのよい涼しさだったからだ。

「あの祠はシモン・ドルチェ様の肖像画が収めてありますのじゃ」

 老師は指さしたままの恰好でそう言った。

「結界が張ってあり、普通の人間が入れないようになっとります。ワシにしかそれは解けませんのじゃ」

「では老師様が結界を張ったのですか」

 オードは頷いた。

「魔法の塔の老師は代々魔法剣士であると同時に、回復魔法も操る者がなることと決められていましたのじゃ」

 重大なことを告げるように、老師の口調は重々しい。

「両方の魔法を操る人間は皆無といっていいほど世界には少ない。だがワシのような力を持った者も全くいないわけではない」

 重々しかった口調が一転した。

「回復魔法といってもそう大した力があるわけではないのじゃがな。多少長生きできるのと、あの祠に結界を張るくらいで」

 自分を卑下するように弱々しく笑う。

「そうやってあの御方の御尊顔を守り続けてきたのですか」

 ジュークは感嘆の思いで彼を見つめた。

「ワシは塔設立より四代目の老師じゃ」

 オードは、さきほどシモラーシャにも見せた、あの優しい目をジュークにも見せて喋っていた。ジュークも思わず微笑み返す。

「ワシは、シモン・ドルチェ様の生まれ変わりに出会うことの出来た最初の老師になるわけじゃ」

「え……?」

 オードの言葉に訝しく眉を寄せるジュークであった。オードは意味ありげに目を細めてみせる。

「とにかく、貴方も肖像画を見ればわかることじゃ」

 含み笑いをしながら彼は歩きだした。

「少しここでお待ちくだされ。結界を解いてまいりますじゃ」

 オードはジュークをその場に残すと静かに祠に近づいていった。

 彼は祠の手前で立ち止まった。両手を翳しブツブツと呪文を唱えはじめる。

 ───ヒュゥゥゥ……

 オードが目を閉じ精神を集中して呪文を繰り出してる最中、微風が吹き出した。

「!」

 ジュークは秀麗な眉を寄せると辺りを窺った。

 次の瞬間───

 ゴォォォ───

 オードの傍で突風が吹き荒れた。その強い風に巻かれて老人の身体はヨロリとかしぐ。

「老師様!」

 ジュークは叫んだ。手を伸ばしながら、急いで駆け寄ろうとする。

 その時───

 オードの両脇の空間が、ゆらりと揺らめいた。

「あっ」

 ジュークは見た。何もない空間からわき出る女ふたりを。言わずと知れたリリスとリリンである。

 ───シュッ!

 ───ドシュッ!

「ああっ!」

 伸ばされたジュークの手が止まった。

 二人はオードの胴体と頭をためらいもせずに両断したのだ。

 噴き出す血潮にその身体を染め上げるリリスとリリン。まるで鬼神の如く立ち尽くしている。

 それぞれ輝ける大剣を握り締め、思わず見とれてしまうほどの美しさだ。

 と、その次の瞬間。

 彼女たちは動きだしていた。ジュークに向かって一直線に。

 ───ガッ……

「な、何っ?」

 振り降ろされたリリスの大剣が、ジュークの頭の上で止まっていた。彼女は目を見張った。

「何か邪魔してる」

 はっとして見ると、ジュークの身体が皓々(こうこう)と輝いている。

 彼は悲しげな表情で静かにリリスを見つめていた。リリスは一瞬怯んだ。

(何なんだ、こいつは)

 ほんの少しの間、時がとまったかのように見つめ合っていたが、ジュークは彼女から視線をはずした。そしてオードに向かって歩みはじめた。

「どこへ行く!」

 慌ててリリスは叫ぶ。だが、なぜか身体が動かない。

「でぇいっ!」

 そこへリリンが大剣を振るった。

「やった!」

 その剣はジュークの身体を真っ二つに薙(な)いだはずだ。

「!」

 だが、やはり彼の身体を傷つけることは出来なかった。リリスとリリンは呆然として彼を見送るしかなかった。

 ジュークは音もなくオードに辿り着いた。しゃがむと切り離された頭と胴体を寄せ集める。

「老師様……」

 彼は両手を翳した。すると輝いている彼の身体が、よりいっそう光輝いていく。その輝きがオードの遺体に届いた。

「!」

 見つめるリリスとリリンは信じられないといったように目を見開いた。みるみるうちにつながっていく老人の頭と胴体。あっというまに、オードの両断された身体はすっかりもとに戻ってしまった。

 しかし───

「これが精一杯です……老師様」

 ジュークは辛そうにそう呟いた。

「既に魂はあなたの身体を離れかかっています」

 その時、オードの唇が僅かに動いた。

「老師様?」

 ジュークは急いで耳を寄せた。

「……シモラーシャよ……」

 それは聞き取りにくいほどに微かな声だった。

「シモラーシャ……何故にお前はお前として生まれてきたのじゃ……」

「老師様!」

 老師オードはすでにこと切れていた。不思議な言葉だけを残して───

 ジュークは目を伏せ、肩を落とした。微かに震えている。彼の身体は未だ仄かに輝いていた。

 リリスとリリンは畏怖の目で見つめた。彼女たちも回復魔法など話に聞くだけで、実際に見たことなどなかったからだ。二人は何か言いようのない神々しさを、この男に感じているようだった。

 すると、おもむろにジュークは立ち上がった。

 ───ザザッ……

 二人の乙女は後退った。一応、大剣を構える。ジュークはゆっくり振り返った。

「!」

 彼女たちは思わず胸を衝かれた。

 なんという表情だろう───彼は静かにたたずんでいた。

 普段は感情を見せることを極力避けている彼だった。だが、銀の髪で隠されていない瞳に今、深く深く吸い込まれてしまいそうなほどの痛嘆が浮かんでいた。

 まるで光の届かない海の底の暗澹(あんたん)たる常闇に囚われ、もう二度と太陽輝く水上に上がれなくなってしまった人魚の悲嘆に暮れた瞳のような痛々しさ。全てを知悉(ちしつ)してしまった悲しみの極限を、まざまざと見せつけられた感じだ。

「あなた方を私は傷つけられない」

 胸が締めつけられそうなほど、ジュークの声は限りなく愁いに満ちていた。

「私の人を消滅させる力……」

 絞り出すような悲痛な声。

「それを二度と使わないと誓った……」

 リリスとリリンは目を見張った。

「私はただの人間なのです。あなた方と変わらない」

 彼の声は泣いているように震えている。

「なのに私は生き続けなければならない。愛する人々が死んでいっても、この世界が続く限り……」

 知らず彼女たちは泣いていた。

 涙が後から後から溢れてくる。今や彼女たちの大剣は輝きを失い、構えられていたそれはダラリと降ろされていた。

 彼女たちの心はジュークの心に同調していた。彼の無限に広がる悲しみが、怒濤のように流れ込んでくる。

 永遠に生き続けなければならない、彼の空漠たる淋しさ、辛さ、やる瀬なさ。そしてその反面、世界がどのように移り行くのかを、自分の目で見つめ続けていきたいという切々たる熱望。

 それらが彼の中でせめぎあい、絡み合って嵐のように吹き荒れていた。

 リリスとリリンはカスタム以外の誰かに、心を捉えられてしまうことがあろうとは想像だにしていなかった。

 しかしこれは恋ではない。愛であろうはずがなかった。

 カスタムに感じたあの強烈な感情とは違って、これは自分が駄目になると彼女たちは心の隅で感じていた。

(いけない)

 焦るふたり。取りこまれる前に何としても抜け出さなければ───

 その時───

 ドドォォン───!!

 物凄い爆発音とともに、建物の一角が吹き飛んだ。

 ジュークの表情が変わった。音のした方角に顔を向ける。どうやらシモラーシャたちのいる執務室の方面らしい。

 ───ヒョオオオオ…

 それを皮切りに、自然とは言いがたい強風が吹き荒れはじめた。その風のおかげで、リリスとリリンは正気に戻ることができたようだった。

「何をしている。お前たち。カスタム様降臨の血の饗宴を遂行せぬかっ」

 彼女らの傍に空間からドドスがわき出てきた。

「言われなくても判っていますっ」

 リリンが叫ぶ。するとリリスが抗議した。

「でもドドス様。この男はどーするんですかっ」

 ドドスはちらりとジュークに目を向ける。その目は充血し、獣染みていた。

「ほっとけ!」

 吐き捨てるように言う。

「あんな女みたいな男。そのうちコープスどもがグチョグチョにしちまうだろうさ」

 せせら笑う。

「しかし……」

「うるさいっ!」

 彼は、さらに抗議の声を上げようとしたリリスを、畳みかけて黙らせた。

「質よりも量だ!」

 物凄い剣幕だ。

「とにかく切って切って殺しまくれ。カスタム様の御意志だぞ!」

 釈然とせぬリリスではあったが、カスタムの名前を出されると従わないわけにはいかなかった。

 次の瞬間、リリスとリリンは身を翻した。餌食を求めて建物の中に飛び込んでいく。

 二人は背中に痛いほどジュークの視線を感じていた。それを振り払うように叫ぶ。

「愛しいカスタム様の御為に!」

「ハアッハッハアァァァ───!!」

 ドドスは気違い染みた笑い声を上げた。

「殺せ殺せェェェ───!!」

 叫びながら、二人の後を追って建物の向こうへ消えていった。それをジュークは、悲しそうに瞳を曇らせ見送っていた。

「………」

 それから彼はゆっくりと振り返った。祠に向かって足を進ませる。

 既に結界は解かれていた。だが、恐らく老師如きの結界などジュークは物ともしなかっただろう。彼は開き戸に軽く手を添えた。

 ───ギ、ギギギ……

 きしんだ音を立ててそれは開いた。人一人が入れるくらいのその中を彼は覗き込む。

 しかし中には何もなかった。

 恐らく肖像画がかかっていたと思われる微かな四角い跡が壁に残っているだけで、絵は忽然と消えていた。

(どういうことでしょう?)

 ジュークは訝しげに眉を寄せた。

 一体誰が持ち出したのだろうか。ずっと結界は張られたままであったのだ。持ち出せる者はいないはずである。人間で結界を破れる者は恐らくいないはず───

 考え込む彼の目が、突然キラリと光った。

「まさか……」

 ジュークは振り向いた。

「彼が……?」

 何かを見ようと、ジュークは遠くに視線を泳がせた。


 それより少し前のこと───

 二人きりで残されたシモラーシャは座ったり立ったりと、まったく落ち着きがない。

 そんな所在無げな彼女とは正反対に、マリーは何か気になることでもあるのか神経質そうに歯で爪をかんでいた。

 彼は、大きな窓の傍に身体をもたせかけて立っていた。視線は外に向けられていた。彼は何かを見つけようとしているかのように、レースのカーテン越しに外を見つめる。

(気になる)

 ここからではオードやジュークたちを見ることは出来ない。それでも彼は見つけようとしないではいられないようである。

 彼は気が気でないようだった。

 さらに激しく爪をかむ。形を気にして、普段なら恐らく絶対しない仕種だろう。

 それほど部屋を出ていったふたりのことが気になるらしい。

(オードは彼に話すだろうか)

 マリーは首を巡らせて、シモラーシャを見つめた。

 彼女は、部屋の中を熊のようにウロウロ行ったり来たりしている。彼はそんな彼女を愛おしそうに目を細めて見る。

(彼女は誰にも渡さない)

 マリーは狂おしい心でそう思った。

 その瞬間───

 ドドォォン───!

 爆音とともに建物が大きく揺れた。

 ───グァッシャァァァ───ン

 マリーのもたれていたガラスが、衝撃波で粉々に吹き飛んだ。

「マリー!」

 シモラーシャは叫んだ。両腕で自分の顔を守るようにしていたので、マリーの姿が彼女には見えない。

「?」

 シモラーシャは不思議に思った。マリーより窓から遠くにいたとはいえ、自分の場所にもガラスの破片が飛んでくるはずである。それがまったく飛んでこなかったようなのだ。

 シモラーシャは恐る恐る腕を解いた。窓の方を見る。

「!」

 彼女は目を見張った。

「マリー!」

 彼女は思わず叫んでいた。マリーが、両腕を広げ背中を向けて立っていたのだ。

「大丈夫っ?」

 シモラーシャはガラスの破片が突き刺さったマリーの姿を想像して震え上がった。背中を見せているので、彼女のいる場所からではわからないのだ。

「?」

 しかし、彼女は何かが変だと気づく。

 よく見るとマリーは、仄かに身体全体を銀色に輝かせている。シモラーシャは、もっとよく見ようと、少し身体をずらした。

「あっ!」

 彼の前方に、粉々になって砕けたガラスが浮かんでいた。まるで夜空に張りついた星々のように空中に止まったままで。

「マ、マリー……?」

 シモラーシャは愕然としながらマリーに声をかけた。

 硬直したようにじっと動かなかった彼の身体が、ぴくりと動いた。

 と同時に、マリーの身体を覆っていた輝きが途絶えた。そのとたん、ガラスの破片がパラパラと床に落ちる。

 ゆっくりとマリーは振り返った。

 マリーは悲しそうにシモラーシャを見つめる。その表情は、見ていて胸が痛くなるほど歪められていた。

「マリー、あんた……」

 シモラーシャは肝を潰したためか、声が途切れがちだ。

「すみません。黙ってて……」

 マリーは辛そうに続けようとした。

「僕は……あの……」

「何なのよぉぉぉぉ───!」

 緊張感のない大声が上がる。

「?」

「ちゃんと言ってよねぇぇ。あんたも回復魔法が使えたんだぁぁ。もうっあんたってば黙ってんだもん。人が悪いんだからあ」

「はあ?」

 マリーは呆然とした。口をあんぐり開けて、まるで馬鹿みたいな顔をしている。

(ち、ちょっと待て)

 彼は心で叫んだ。

(今のは回復魔法ではないぞ……)

 まったく見たことのない力は彼女にも理解しようがない。ということで、どうやら不思議な力は全部回復魔法なのだと彼女は考えたらしい。

 マリーの気持ちは複雑だった。なんとなくすっきりとしないが、とりあえず胸を撫で下ろすことにした。

(彼女の無知さを喜ぶべきなのでしょうけどね。釈然としませんよねえ)

「それよりっ!」

 またしてもシモラーシャは大声を上げる。再びマリーはびっくり顔だ。

「今の爆発。老師様やジュークは大丈夫かしら。何が起きたんだろう」

「そ、そうですねえ」

 マリーは表情を歪めた。今度は先程と違ってとても苦々しげにだ。

(彼は大丈夫なのに……)

 マリーはシモラーシャにジュークの心配などしてほしくなかった。それはもちろんオードやドーラ、自分以外の全ての者に対してもだ。

「誰も彼を傷つけられないんですよ」

「え……?」

 いつになく真剣な顔をシモラーシャに向けるマリーだった。

「彼は……ジュークは、オムニポウテンスに選ばれた光輝神官だから……」

 マリーは語りはじめた。

「この世界の神は不老だが不死ではないのです。しかし神に選ばれ、光輝神官になった人間は不老不死になってしまうのです」


 神と人間は全く異質な存在ではない。ただ霊力が人間より遙かに強力であるだけで同じ種なのだ。だから彼らの不老は、その強力な霊力によって維持されているのである。

 しかし他人に殺されることはあっても、自分で死ぬことは彼らには許されていない。それを決めるのは全てを、彼ら神をも創り出した創造主だけである。もし、その意思に反して自らの命を絶ってしまったら、永久にその魂は転生できなくなるのである。

 神は世界を支配するのではなく、世界がより良くその生を全うできるように管理し、導く者たちなのだ。そして、永い時を彼らは生き続ける。

 時にはそれは辛く彼らの心を苛むだろう。そのために彼らは自分たちの伴侶として、あるいは友として短命な人間から気に入った者を選びだすのだ。それほど神は僅かしか存在していなかったのである。

 選ばれた人間は神と同じ能力を授かる。しかも、それ以上の能力も身につけてしまうのだ。それが不老不死である。世界が滅ぶまでの永遠の命───

 なぜ選ばれた人間の方が、選んだ神より優れた存在になってしまうのか。それは選んだ神にさえもわからないことだった。選んだ相手を強く愛するがゆえのことなのか、それは誰にもわからない。どちらにしても選ばれた人間は相当の覚悟が必要とされる。

 神々の間ではその人間を『光輝神官』と呼んでいるが、選ばれた者はまだほんのわずかのことらしい。実際、そういうことを噂に聞くだけで、神々も光輝神官をこの目で見た者はいないらしいのだ。

 それもそのはず、神々にとってそれは実はとてもリスクの大きい賭でもあったからだ。選ぶ神にとってその者が真実愛する者でない限り、選ばれた者の魂は消滅してしまうからだ。

「彼は永遠の命を持つ人間……」

 マリーは目を閉じ、思いを馳せた。

(神に真実愛された人間なのだ)

 永遠に生きることはとても辛いことだ。それは神だろうがジュークだろうが同じことである。

(光の神オムニポウテンスは迷わなかったのだろうか……)

 マリーは考える。

(僕にはとてもできない)

 メビウスの輪のような転生のない地獄。そんな地獄へ、愛する者を引きずり込むようなことは───とてもそうする決心がつかない。自分の気持ちを疑うわけではないが、もし万が一と思うと怖じ気づく。第一、恐らく彼女は決して人間であることを捨てはしないだろう。

(だけど……)

 マリーはシモラーシャの美しい顔を見つめる。

(僕はシモラーシャ・デイビスという人間を永久に留めておきたい)

 マリーは狂おしく願っていた。胸が痛くなるほどに。

「な、なによお。そんな恐い顔して見ないでよ」

 シモラーシャはぷーっと膨れた。

「でも、なんでそんなことあんたが知ってんのよ」

 彼女は不思議そうに聞いた。

「え?」

 マリーは慌てた。

「あ……いや…」

 苦し紛れに言い訳をする。

「あっほら……僕って、いちおー吟遊詩人でしょ。昔から伝わる神々の詠なんかに、そーゆー話が歌われていたんですよお」

「ふうーん」

「あれって、けっこう真実を伝えてるもんですからねえ」

 シモラーシャは、まだ疑わしそうな目をしていたが、それ以上はもう何も言わないことにしたらしい。

「とにかく……それでも助けにいくのが人情ってもんよ」

「人情なんてあったんですか……」

 こそっとマリーが呟く。

「なんか言ったあ?」

「あっいえいえ……なんにも……」

 マリーは嬉しそうにぶんぶんと首を振る。

「じゃ……」

 シモラーシャはビシッと真剣な顔をする。

「マリー、行くよっ!」

「はぁい、はいはい……」

 彼はやれやれといった風に返事をした。

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