第13話 戦闘

 沙羅が計画したとおり、徳永は餌に食いついた。


「君ガ部屋ニ入ッタ後、30分後ニ通報スル」

「わかった」

「本当ニイイノカ? 友達ノタメトハイエ、30分、地獄ガツヅクゾ?」

「それだけあれば、ふざけてたとか言い訳はできないでしょ」

「ワカッタ。モウコレデ犠牲者ガデナクナル。作戦開始ダ」



 ダミーのデリヘル業者を装い、沙羅は徳永たちが待ち受けるホテルへと派遣され、約束の部屋に行く。


「やぁ、いらっしゃい」

徳永が愛想の良い顔で沙羅を招く。


「よろしくお願いします」

沙羅が挨拶し部屋に入ると、そこには、男たちが待ち構え、撮影機材が準備されていた。


「なんですか、これは! 私、帰ります」

沙羅が怯えた声を出して帰ろうとすると、徳永が沙羅の腕をつかみ、部屋へと引きずり込んだ。

「ちゃんと、金は払うからさ。普通にやるより稼げるぞ」

「やめて下さい」

逃げようとする沙羅を、男たちが押さえつけた。


 男たちは全部で5人。照明を持った奴、カメラを持った奴、徳永、他に二人。すでにカメラはまわり、撮影が始まっているようだ。沙羅が部屋に連れ込まれたところから、映像として売るのだろう。


「暴れても無駄だ。まぁ、あんまりおとなしくされても、こっちも困るけどな」

一人の男が、沙羅を後ろから抱きかかえ動けないようにし、もう一人が、沙羅の前に仁王立ちとなる。


「まずは、服着たまま、しゃぶってもらおうかな」

どの国の男たちも同じだ。自分の一物をしゃぶらせることで、女たちを支配しようとする。


 眼の前の男が、自分のものを出し、沙羅の口に突っ込んでくる。

「ほらほら、口開けろよ」

どの国の男たちも同じだ。女の怖さを知らない。


「先に手でやってあげるわ」

そう言うと、沙羅は男のものを、強く握った。


「ぎゃーーーーー、」

男が、大声で叫びながら、のたうち回る。そして、失神した。


「なんだ?」

 男たちがあっけにとられているなか、沙羅は、後ろから沙羅を抱えていた男の鼻面に頭突きを食らわせた。


「げっ」

 男が激痛に歪む顔を抑えた瞬間、沙羅は男の束縛から抜け出し、男の脳天に肘打ちを食らわす。


 男たちが、パニックから回復する前に、沙羅はカメラを抱えていた男の股間を蹴り上げる。


「ふざけるなー!」

 照明男が、沙羅の頭に照明を叩きつけ、ガラスの破片が飛び散った。


「このやろー!」

 照明男と、徳永が、沙羅に襲いかかる。女と男では筋肉の量も体重も違う。二人の男が、沙羅を容赦なく殴りつけ、両手でガードした沙羅の体を揺さぶった。


 プロのボクサーでもなければ、休み無く人を殴り続けることはできない。男たちの動きが止まった瞬間、沙羅は照明男に頭突きを食らわした。

 人間の最も固い部分の一つである頭蓋骨。そして、ちょうどいい男女の身長差。沙羅の頭突きは、照明男の鼻の上を捉え、照明男は気絶した。


 残りは一人。徳永だけ。


「や、やめろ」

戦意を失った徳永が、助けを求める。


「あんたは、やめた?」

悪鬼のような顔をした女が言う。


「やめてくれ、たのむ。何でもする。許してくれ」


 沙羅は思った。正義の味方なら、どんなに悪いやつでも、降伏したら敵を許すのかもしれない。しかし、自分は正義の味方じゃない。正しいか正しくないか、そんな事に関係なく、生き延びるために、できることをしてきた。ただの生き残りだ。


 非情に、徳永のみぞおちに、蹴りを叩き込む。


「うげっ」

 腹を抑えて、うずくまる徳永。


 そして、沙羅は部屋を見回し、縄を手にした。美希を凌辱し、尊厳を奪った縄を。


 まだ、地獄は始まってない。

 地獄が始まるのはここからだ。



 30分後、少女が乱暴されていると匿名の通報を受けた警察がホテルに到着した。


「急げ、突入するぞ」

警官達が部屋の扉を前に陣取る。


「鍵はかかっていないようです」

「よし、全員逃がすな。突入!」

警官が一斉に、部屋に飛び込む。


そして、惨劇を目にした。


「うわー、なんだこれは!!」

男たちが裸で縛られて、醜態をさらしていた。



 ホテルを後にした、沙羅の携帯が鳴った。

「何ヲヤッテルンダ。ドウイウツモリダ」

合成音声が言った。もし、肉声なら、きっと怒鳴り声だろう。


「やるべきことをやった。それだけ」

沙羅が答える。


「携帯で撮った映像を、あいつらが売る予定だった映像の代わりにアップしてほしいの」

沙羅が言う。


「何ノエイゾウダ?」

「気持ち悪いから、見ない方がいいと思う」

「ワカッタ」

「その後どうなるかは、わからないけどね」

「何ガオキテモ、ヤツラノジゴウジトクダ」


「今回のことで、罪を償えって言うなら償う。でも、少しだけ時間をちょうだい。最後にやることがあるから」

沙羅は言った。


「イヤ、ドウニカスル。アイツラガ証言シテモ、ショウジョ一人デ、コンナコトハデキナイ、誰カ別ノ犯人ヲカバッテイル、ト警察ガ考エルヨウニシムケル」

電話が答える。


「そんな事できるの?」

「マカセロ。マタ連絡スル」

そう言って、電話が切れた。


 沙羅がこれからやろうとしている、もう一仕事。それはたいした手間じゃない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る