第5話

「やあ、久しぶり~。

元気してた、ヒュプノス」

「……ええ、まあ……。」


おかしい。


海の国からやってきた魔女と使い魔を見るなり彼はすぐにそう感じた。

この国に自らこの二人が来ることは滅多にない。

まして、彼女が自らと同じ血族の彼に、一切連絡をしないで訪れることはなかった。

無論彼女だけならば失念している可能性も無きにしも非ずといったところではあるが……


ヒュプノスは閉じたままの瞼を開くことなく、ナギの様子を伺う。

その相変わらずの鉄仮面は、やはり何の感情も読み取れない。


この小さな魔女、レフカの使い魔である彼が面会の約束もなしにこうやって現れるはずがなかったのである。

多少慇懃無礼ではあるものの、彼は常識に沿った行動をする男だった。

それなのに、今回は連絡一つ入れないでこうして目の前にいる。


考えていても無駄だろう、相手方はお得意の漫才を始めていた。


「あのぅ……」

「……ああ、ごめんよ。すっかりいないものとして扱っていた」


さらりとひどい物言いをされている。

いくら親しい間柄とはいえ、互いに国の重鎮であるのだからもう少しちゃんとした対応をしてほしいものだった。

けれどそんなことを一々指摘したところで直るわけでもない。

ヒュプノスは一つため息を吐き、本題に入ろうと口を開いた。


「それで、一体何の」

「あ、その前にさ」


しかし向こうはそれを遮って言葉を口にした。

全く、この二人と話していると自分の思うように行かない。

ほんの少しの苛立ちを感じつつも彼はさも不思議そうな顔をして小首をかしげる。


「何でしょうか?」

「この国に新しく落ちてきた子がいるんでしょ?

見せてよ」


やはり気づかれていたようだった。

しかしながら魔法も使えなければ物理的な身体能力も高くない人間の子供を隠す必要もない。

見せて、とわざわざ言うのに少しばかり疑問を持ちかけたが、レフカはそういう女だとも思い直す。


「別にいいですけど……、あんまりいじめないでくださいよ?」

「え~?私子供には優しいもん」


どの口が言う、といいかけて、やはりその言葉を飲み込んだ。

ギャーギャー騒がれて嬉しいとは思えない。

ヒュプノスはため息を吐き、ボリスに念話で魔女の来訪を伝えつつも椅子から立ち上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はるかはるかのはるかさき。 ゆずねこ。 @Sitrus06

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る