第4話

「もしもこの世界に魔法がなかったら、もっとマシだったのかな」


浅葱色の目を細め、女性の如く整った顔の青年は顔を上げる。

その視線の先には顔の左側を包帯で覆った少女がいた。

彼女は光のない青い瞳をゆっくりと彼に向ける。


「……きみがそんな話を持ち出すのは今に始まったことじゃないけど……随分と急だね」

「いいや、ただちょっと感傷に浸っちゃったのさ。

もしもなんて語ったところで無意味なのに。」


青年は彼女の杖を両手で持ち、彼女に差し出した。

それを受け取ると、魔女はふうと息を吐く。


「さあ、聖母のために食事を用意しなくては。

妙な存在のことも一応確認しないとね、ナギ」


彼女は嗤った。

その傍に控えた青年は目を閉じる。


かつん、と杖の先が床に触れて硬い音を立てた。

少女と使い魔二人を中心に光の線が地面に走り、それはやがて魔方陣を作り出す。

転移魔法。

竜族ならば誰しもが使えるそれは、魔女の魔力を媒体に二人を送り出す。

冷たい海の底、白亜と群青の世界から、色鮮やかな地上の帝国へと。

彼らの目的はただ一つ。

かの国を打倒し、地の竜王と雷の騎士を海の聖母に捧げることである。

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