第2話
「ハルカ」
びく、と肩を跳ねさせその子供は飛び起きた。
口元の涎跡を拭きながらきょろきょろと周りを見回す。
「どこ見てるの?」
「こっちよ、こっち」
交互に言葉を口にするその良く似た声に漸く子供は声の主を見つけた。
金色の髪の双子がそこにいる。
子供は双子の本名を一切知らずにいたが、彼らは自らをヘンゼルとグレーテルと呼んでいた。
「ハルカってばお寝坊さんだね。ねえ、グレーテルくん」
「ええそうね、ヘンゼルちゃん。でもそんなところが可愛いわ」
ハルカは首をかしげながらそんなに寝ていただろうか、と考え込む。
その様子を見て、双子は何が面白いのかくすくすと笑っていた。
「ハルカ、お腹空いてない?」
「私たちこっそりお菓子持ってきたのよ。ねえ、ヘンゼルちゃん」
「そうだったっけ、グレーテルくん。僕はすっかり忘れてしまったよ」
仲のよい間を空けない掛け合いに、ハルカはとりあえずお腹が空いてないといおうとし、ぐぅうとお腹を鳴らした。
言おうとした言葉を飲み込む。
しかし聡い双子はこの子供が何を言おうとし、そして何が起きたかを理解したようでにっこりと微笑んだ。
「早速食べましょ」
「ああ、でもグレーテルくん、ここ図書室だよ。
外で食べなくちゃあならないね」
「ああ、そうねヘンゼルちゃん。
可愛い可愛いお寝坊さん、お外へ移動しましょ」
ハルカはその前に読んでいた本を戻そうと思った。
しかしそれは既にヘンゼルの手の中であり、すぐに本棚の開いた場所へ突っ込まれてしまう。
ちゃんとした場所に戻さなくていいのかと双子に問えば、双子は大きくうなずいた。
そしてハルカの返事を待つことなくハルカを間に挟むようにして手を握る。
横一文字に並んで仲良く三人の子供が廊下を歩く様はとても微笑ましい光景だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます