はるかはるかのはるかさき。
ゆずねこ。
第1話
「あの子、随分と大きくなったな」
ぱたんと本を閉じる音。
この国の王はゆっくりとその琥珀の目を向けた。
「……どうしたの、ボーリャ。
きみがあの子のことを口にするなんて珍しいじゃあないか」
愛称で呼ばれたその黒髪の青年、ボリスは肩をすくめた後窓の外を顎で示した。
王は立ち上がり、その窓を覗き込みに歩み寄る。
部屋の中よりも明るい光が差している窓の外を、目を細めながら眺めた。
この荘厳な城に抱かれるようにして、庭園はそこにある。
普段そこには暇を持て余した竜騎士たちがいるのだが、今はたった二人が貸切状態にしていた。
木の棒を振り回す例の子供と、それを笑いながらいなしている竜騎士の男が見える。
その子供には性別を判別するための器官が存在しない。
名前はハルカという。
ある日降ってきたとしか形容できない様子で落ちてきたので、彼らはこの子供を怨敵である神のものかもしれないと捕獲した。
ところがこの子供、この世界とは別の世界から落ちてきたという以外は、魔法も使えず武器も使えない、ひ弱な人間の子供でしかなかった。
帰る場所もないこの子供を放り出すほど彼らは無慈悲でなかったため、こうしてここにおいている。
その日から何年か経って、今のこの日があるというわけだ。
「あの子は不思議な子だよね。
ただの人間でしかないのに……どうにもあの子を構っちゃうんだ」
王は、シルヴェストル陛下はそういって笑いを浮かべる。
覚えがあるのか、未だ窓際に立ったままの彼も苦笑いをした。
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