きぐるい 1-1

おかしい。

私は魔女を尋ねたはずなのに。


「やあ、初めまして。」

「……お初にお目にかかります」


通された先には女性が我が物顔で座っていた。


彼女の勧めるまま席に着き、周囲を見回す。

至って普通の部屋だ。

私の目の前に紅茶の入ったカップが差し出される。

知らない匂いがしているが、不愉快なものではない。

一口啜れば、暖かくまろやかな甘みが口に広がった。

熱いものを一気に飲んだせいか舌が少ししびれて痛む。


……こんなことをしている場合ではない。

カップを置いて正面の女性を見つめる。

私の記憶が確かならば、この女性は魔女ではないはずだ。

私の知っている魔女はまだ幼体で小さな子供の姿をしている。

だから、ここに彼女がいるのはおかしかった。


「あの……浅瀬の魔女に会いに来たのですが……」

「ああ、知っているとも。

生憎今彼女は面談できる状態じゃあなくてね。

だから今こうして彼女の使い魔である僕がここにいるんだ」


なるほど。

確かに浅瀬の魔女は精神状態が不安定だった。

彼女の家族である父親と姉を一度に失い、唯一の肉親である兄すら傍にいない。

可哀想に、彼女は塞ぎ込んでしまった。

風の噂では自らの使い魔に応対を任せずっと引き篭もっているらしい。

未だ立ち直れていないのだろう。

はて、彼女の使い魔は男だったはずだが……。


「つかぬことをお聞きしますが……女性、ですよね?」


そう聴いた瞬間の彼女の表情で全てを理解した。

いや……彼、というべきか。

彼はそれを聞いた瞬間やや嫌そうな表情をしたのだ。

失礼なことを聞いてしまったと慌てて謝ろうとしたが、彼は片手を上げる。


「……気にしないで、慣れているから」


どうやら彼は他の人々からも言われたことがあるようだった。

苦虫を噛み潰したような表情もすぐに最初の無表情に戻ってしまう。


「それで、浅瀬の魔女に何か用でも?」

「あ……その、先日お伝えしたように……」


口ごもる。

青年は眉をあげて私の様子を見ていた。

私はゆっくりと説明をする。


私の妹とその婚約者が先日から行方不明なのだ。

先にいなくなったのは婚約者。

彼は宮仕えの心根の優しい青年だった。

そして私の妹は、ナギという男を殺すと言ってそのまま帰ってこない。


「……つまりそのことを調べてほしかったんだね」

「はい。浅瀬の魔女は占いにも精通しているとお聞きしていたので……」

「ふうん……」


青年は一口紅茶を啜り、濡れた唇を指で拭う。

その華奢な見た目と反してやや乱暴な動きだった。

何となく俯く。

空になったカップが私の顔を映していた。

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