とある魔物の生い立ち
最早何の意味の持たない声が漏れだす。頭が割れるように痛い。
真っ白な雪のような髪に、琥珀色の瞳。
竜族の象徴と呼ぶべきそれを持った、ただの人間の少女。
今にも消えそうな命のともし火を抱えるこの子供は、ただの人間だった。
ずる、ずる、と、ボロボロの腕で這いずる。
ちぎれた下半身が上半身から離れていく。
ぽろぽろと最早まともに機能していない内蔵が零れ落ちた。
その度に激痛が走る。
それでもその少女は伝えたい言葉があった。
誰に対してのものだったか、思い出そうとするたび痛みに塗りつぶされる。
ぽろ、とまた何かが零れた。
母なる海と同じ味をしたそれが一体何かなど、少女は気がつかない。気がつけない。
「……、」
少女は行きたかった。
少女は生きたかった。
どうして自分がこんな目に、とひどく恨んだ。
貴方の元に行きたかった。
誰の元に?
思い出せない、何も思い出せない。
指先すらもう動かせない。
少女は絶望し、失望した。
誰にもこの声は届かない。
誰にもこの感情は届かなかった。
翼がほしかった。
あの人の元にもう一度行きたかった。
体はもう動かせない。
血溜まりの中に伏した少女はもう動かない。
動かない、はずだった。
「……ふふ」
笑い声。
この場に人はいない。
そう、人は、いない。
くすくすくす、少女の可愛らしい笑い声、否、魔物のおぞましい笑い声が響いた。
ずるり、ずるり。
引きずる音が響く。
金に輝く雷の色をした毛髪が頭の動きに合わせて揺れた。
青く黒く、深海のような色の瞳が不思議そうに自分の下の血を見ている。
しかしそれに正気の色は見られない。
羽の音を響かせ、それはその姿を消す。
後に残ったのは多量の血痕のみだった。
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