持ち主のいない首輪

ラディウスの最初のマスターは魔族であった。

好きで彼女を選んだわけではない。

彼の親である人形師が選別し、更に自分の中の魂が彼女を選んだのだ。


ラディウスの髪は白く、その瞳は透き通るような青色をしている。

一方で、その彼女は赤い瞳に燃えるような緋色の髪をしていた。

その瞳は自分と違う異質な容姿の彼をしっかりと見据えていた、ような気がする。


家に帰りたいと彼女はよく泣いていた。

彼女の首にはしっかりとした枷がある。

魔族である彼女は人形師にも逆らえないのだから、逃げられるわけがない。

例え自分が家に帰してやろうとしても、意思を持つとはいえただの人形では彼女を逃がしてやることなどできなかった。


その魔族はとても弱々しく泣き虫だったので、とてもそうとは見えなかったと彼は記憶している。

その子供は無理やり親元から引き離されたようなものだから、恋しがって泣くのも仕方ないだろう。

彼女は短い赤い髪の幼女の姿を好んで取っていた。


……というより、その姿は彼女の精神の姿そのままなのかもしれない。


「マスター」


そう呼ぶたびに幼子はひどく泣いた。

だからラディウスは彼女をマスターと呼ぶことをやめた。

彼女はそうしてやれば少しばかり自分の人形に懐くようになっていた。


ラディウスはよく笑う人形だった。

見た目の割にあまり笑ってくれぬマスターの代わりか、それともそれは自分がつられて泣いてしまわぬようにという思いからか。

人形はどうにもその理由が思い出せない。


どうして彼女を縛る枷だけが自分の手に残っているのかもわからなかった。

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