The Girl Who Sings of Love

 どうせ高校生の恋だから、って言う人もいるけど……ボクは違う。少なくとも、。ボクにとってのその人は、近江なんだよ。


 どうして俺をって思う?


 ボクは答えられるよ。


 ボクは近江の顔が好き、ちょっと低い声も、実はガッシリしている身体も、困った人を放って置けなくて、自分が損をしても構わないって思えるその性格が好き。


 ボクは近江が好き。


 クラスで初めて話し掛けてくれた時、ボクは正直「怖いな」って思った。当然だよね、その頃のボクはとにかくクラスに馴染めるかどうか不安で、見る人見る人全部敵に思えたもん。


 ボクは……近江の彼女になりたい。


 近江が二年生の左山梨子さんと付き合っているのは知っているよ。別れてなんて言わない、ボクだけを見て欲しいだなんて言わない。ただ、


 倫理観が無い、って思われるのが嫌だ? 分かるよ、分かるけど――だから? って感じ。自分から望んで彼女を二人作るんじゃなくて、「自分を二人目にして」って言われたらどう?


 ボクがおかしいのかな。ほら、よく言うでしょ。卵を入れる籠は複数にしろって……。何か違うかも? まぁいいや。


 さっきボクは近江にファーストキスをあげた。正真正銘、恋愛感情を持った相手にする心からのキスを……ボクは近江にあげたんだ。


 嬉しかった。妥協した相手にするよりも、この人にって決めた相手とするキスは、まるで電気が走ったみたいだったよ。


 近江、ボクは近江になら何でもあげられる。何でもしてあげたい。左山さんには出来ないような……その、まぁヤバい感じのやつでも、ボクなら叶えられる。例えば……左山さんが近江と愛を分かち合うタイプだとしたら、ボクは、近江に尽くしたいんだ。


 ボクの全てを見て欲しい。ボクの目を、髪を、顔を、手を、胸を……上から下までを、心から全てを近江に見せたいんだ。


 こういう提案はどう? 左山さんとは普通に高校生っぽい恋愛をして、、というのは?


 …………近江もやっぱり男子だね。顔は引き攣っていても、目がボクの身体を見ている。誤魔化しても無駄だよ、ボク、相手の視線がどういう風に動くか、全て分かるんだ。


 八九、六〇、八八。


 この数字が分かる? 流石に分かるよね。この数字は全て近江のものだよ。ボク、身体にはちょっと自信があるんだ。


 いいじゃん。身体目当てで始まる付き合いも。ボクだって近江の身体、すっごく興味があるよ。体育の前、時々更衣室のドアが開いているでしょ。ボク、ずっと近江の身体を見ていたよ。


 興味無い訳、ないよね? 異性の身体なんて見るに決まってるじゃん。好きな人なら尚更。


 ……まぁ、それだけの関係でいるのはちょっと寂しいから、たまに、ボクとも普通にデートだってして欲しいな。たまにでいいから。


 ボクね、近江と釣りに行きたいんだよ。一緒に釣りとかして、釣った魚をボクか近江の家で捌いて、料理とかしてみない? すっごく楽しいと思うよ。勿論、海釣りだけじゃなくて川や池も行きたいな。本当はボクね、雷魚を釣るのが好きなんだ。見た事ある、雷魚? 泥鰌の親分みたいな、そういう感じで――。


 あはは、ヒートアップしちゃった。ごめんね。


 何かね、直感なんだけどさ、近江って結構モテるタイプだと思う。多分、その気になれば――上手くやれば、だけど――二、三人と付き合えるよ。


 だけど……ボクが最後に勝つとも思う。いや、確実に勝てるね。左山さんにも……悪いけど。


 ボク、こう見えて優良物件レアモノなんだ。


 お父さんは裁判官だし、お母さんは料理の先生をやっていて、レシピ本も何冊か出している。家もお金が無い訳じゃない、料理はお母さんに仕込まれたから、何も見ずに五〇は作れるよ。得意料理は麻婆豆腐と筑前煮かな? この二品はお母さんにも負けないよ。


 それに――賀留多……強いよ、ボク。


 どんだけ、って顔だね。


 明日、試してみる?


 ……乗り気だね。折角だから、何か賭けようか?


 うーんと……じゃあこうしよっか、近江が勝ったらボクは諦めるよ。近江に必要以上に関わらないし、今日の事はすっかり忘れる。そうそう、梁亀さんの問題もボクが解決してあげるよ。簡単だよ、から《札問い》で倒すだけなんだから。


 えっ、いいの? 技法を選んでも? 流石は代打ちだね。まぁ、ボクも代打ちなんだけどさ。


 ボクが勝ったら?


 まさか、付き合ってなんて言わないよ。そんなで願いが叶う勝負なんて意味無いよ。あくまで近江の口から「付き合うか」って言って欲しいもん。


 そうだなぁ、ボクが勝ったらねぇ……。


 うん、決めた。


 ボクが勝ったら――


 どう? やる気入った? あはは、なら良かった。


 それじゃあ、今日は帰るね。今度からは一緒に帰ろうね?


 あぁ、そうそう。


 唇だけじゃ、嫌だからね――。

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