九月一三日、放課後

 ……おや、来ていたんですかぁ? 何をボンヤリ突っ立っているんですか、ほら、入って入って。


 ……うん。


 それで、どうでした?


 どう、って……信じたと思うよ。


 はぁ? 何だろう、私って嘗められているのかなぁ。


 ご、ごめんなさい! 違う、ちゃんと教えられた通りに言ったし、ほら、文芸部と広報部って仲が良いから――。


 良いから、それでどうしたと?


 信じて……くれると思……う。


 思う、ってのじゃあ一〇〇点は付けられないんですよねぇ。


 うぅ……。


 貴女なんかに頼らずともぉ、私自身が行くのがいちばーん手っ取り早いのですがぁ……。立場上、どうしても面倒事が起きちゃうんですよねぇ。分かっています?


 ……分かっているよ。ねぇ、今後……貴女はどうしたいの。


 そうですねぇ、まぁ……何と言いますか。混水模魚とも言うでしょう、まずはグチャグチャーっと、相手が浸かっている水槽を掻き混ぜるんです。すると?


 こ、こんすい……? どうなるの?


 混乱するんです。お互いが敵に思えて仕方無い、あっちでこっちで自分の噂が流れているようで落ち着かないって訳ですよ。


 それで……その、何かするの?


 いいえ、特には。いやまぁ、こっちに矢が向いたら対処するけど……気になるんですよ、何が起きるのかなぁ、第三者を放り込んだらどうなるのかなぁって……。


 じゃあ、貴女は……唯、楽しいから……あの人をけしかけたの?


 それもありますが、まぁ、貴女の持っていた情報が決定打となりましたねぇ。私も驚きましたよ、あんなに仏頂面が似合う女に、お涙頂戴のエピソードがあっただなんて……。


 ……。


 人って良いですね。同じ轍を踏みそうな人がいたら、つい助けてあげたくなっちゃうだなんて。


 でも、あの人を怒らせたら不味いよ。私は勿論……貴女もいつか――。


 何を心配しているんですか。ああいうタイプはですね、攻め馴れている分、叩かれればすぐに崩れるもんです。例え貴女の元を怒りながら訪ねて来ても……大丈夫なように、取って置きの改革があるじゃないですかぁ。


 ……こっちは記事を書くだけだから良いけど、本当に……やるの?


 何も私だけじゃないんです、経緯は多少違えども、こういうのを求めていた生徒は少なく無いのです。遅かれ早かれ花ヶ岡は変わるんですよ、貴女は唯、記事欄と賛同者を何名か用意すれば良いんです。


 分かったよ、じゃあ……また用があったら呼んで。


 えぇ、えぇ。次にお話するのは、まぁ多分……仙花祭が終わってからかなぁ。そうそう、この前の道具、どうです?


 ……うん、友達は誰も気付かなかったよ。


 良かった良かった。次は本番ですねぇ。まぁ分かっているとは思いますけどぉ、斗路と三古和みこわ、それに播澪はみおの三人は――見抜きますよ。これは大真面目に忠告します。


 分かっているよ、顔も知っているし。……ねぇ、仮に、この三人に見付からず出来る人って、いるのかな。


 …………さぁ。知りませんねぇ。あれですか、新聞屋として何かが疼きましたか。


 純粋に興味が湧いただけ。それじゃ、また……。


 はい、ご入り用なら別途、呼んで下さいなぁ――。

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