花札学徒鉄火録~正伝~

文子夕夏

黎明篇

序章

ある少年の通話内容

 ういっす、久しぶり。卒業式以来……だよな。五ヶ月もあっと言う間だ、もう夏休みだからな。


 最近、高校生活はどうだ? 彼女は出来たか? 俺? 俺は……ほら、ちょっぴり恥ずかしがり屋だから。いや、本当だ。誓って覗きなんかしていないぞ?


 うん? あぁ、花ヶ岡高校は良いところだよ。元々が女子校だから可愛い子は一杯いるし、まぁ男子の肩身が狭いのは傷だけどよ。


 え? あぁ、そうだ、俺の高校ではがやり放題なんだよ。お前の言う通り、昔からそうらしいよ。……違うよ、百人一首だけじゃない。札を使う遊戯を総称して賀留多、って言うんだよ。どうだ、俺も大分詳しくなったぜ?


 お前が知っているとしたら……、ってあるだろう?


 あれも賀留多の仲間なんだよ。正式名称を《八八花》と言うらしい。聞く分によると、花ヶ岡で一番人気な賀留多だとよ。皆が昼休みとか放課後にやっているんだ、俺もやっているぞ。……馬鹿野郎、ちゃんとルールを憶えたっての。


 そうそう、賀留多について一つ、面白い話があるんだが……ちょっと前置きが必要なんだ。……例えばだ。ある二人が喧嘩をしている。どちらも退かず、埒が明かない……そんな時、お前ならどう解決する?


 あぁ、そうだ、普通は話し合いだよな。でも……花ヶ岡では違う。があるんだ。……その名も《札問い》、何と揉め事を《こいこい》で解決するんだよ。ビックリだよな? え、を知らない? それは後で説明するよ……。


 話を戻すぞ。お前、龍一郎を憶えているか?


 そうだ、「近江龍一郎このえりゅういちろう」だ。同じクラスになったんだよ。アイツ、随分と波瀾万丈な高校生活を送っているんだぞ? どうせ暇だろう、長くなるけどさ、絶対に面白いから聞いてくれよ。


 そうだな、あれは確か……五月だな。俺が不幸にも、ちょっとしたに巻き込まれた時だった――。

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