第67話「恩師との再会」

3月下旬、オレは学校の校門前で美里さんを待っていた。校庭の桜の木は満開で卒業生には忘れられない卒業式になるだろうな、なんて無責任なことを考える。


卒業式以来だけどそれにしてもグランドといい体育館といい変わらないな……


昔を懐かしんでいた時だった、一台の黒い車が停車して美里さんが降りてきた。


「お待たせ」


美里さんが笑顔で声をかける。


「今来たところだから」


いつものようにそう返す。


「私のわがままでごめんね」


と美里さんが申し訳なさそうに言う。


「いや、気にしないで美里さんこそ大丈夫? 」


「うん、私は大丈夫だよ」


彼女は力強く答えた。


そのまま2人で卒業式の頃最後に通った道を逆に歩いて移動する。


「こうしていると一緒に登校しているみたいだね」


美里さんはどこか嬉しそうに言った。そして突然オレの手を握る。


「ど、どうしたの美里さん! ? 」


不意を突かれたオレはビクン、と跳ねながら上擦った声で尋ねる。


「良いよね、誰にからかわれるわけでもないんだから」


「そうだね」


何度か夢に見た。美里さんと一緒にこうやって手を繋ぎながら登校したいって、それがやっと叶ったんだ。


オレが感極まって涙が出るのを堪えていたその時だった。


「嘘! 二人で来るっていうからもしかしたらって思ったけど櫻井さんと坂田君ってそういう関係だったんだ! 」


声のする方向を見ると体育館の陰から鈴木先生が姿を現した。


「へ~、男子から人気のあった櫻井さんとまさかこの修三君がね~」


鈴木先生がオレと美里さんを交互に見つめた。


「鈴木先生、修三君とお知り合いだったのですか? 」


美里さんが驚いて尋ねる。


「まあ、授業いつも居残りだったからね~そりゃ話す機会も増えるよ、坂田君って意外と叩くと面白いというか、噛むほど味が出るスルメみたいな人だよね」


「す、スルメ! ? 」


動揺するオレのですか? 横で美里さんが笑いながら口を開く。


「それ少しわかります。私も話しかけたら面白い人でそういうところが……」


言いかけて美里さんは頬を染めて俯いてしまった。


「おっと、ちょっと熱くなってきたね~、いや~まさか長い教員生活の中でこんな面白いこともあるんだね」


先生は何度もうなずき噛み締めるように言う。


「本当にお疲れさまでした先生」


オレがそう言うと鈴木先生がオーバーに驚いてみせる。


「おおっと、坂田君にしては普通だね~」


「僕も成長しましたから、それにこれは美里さんと考えたのでそんな変なことは言いませんよ! 」


「修三君、それは言っちゃダメだよ~」


美里さんが慌てて注意するのをみて先生が笑う。


「やっぱり坂田君は変わらない、いや美里さんのお陰で少し明るくなったかな~」


そう言った後に咄嗟に時計を見た。


「あっごめん、二人とも。私机の片付けとかしないと! バタバタして悪いけれど学校見学は話は通してあるから後は二人で楽しんで~」


「いえいえ、ありがとうございます。お疲れさまでした、鈴木先生」


「お疲れさまでした」


挨拶を済ませると先生は小走りで職員室の方へと向かっていった。


「元気そうだったね」


「うん」


二人で先生を見送ったあと、オレ達も校内の入り口へと向かった。



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