第64話「名前で呼んで! 」
「修三君、突然ですが問題です」
「本当に突然だね櫻井さん」
いつものように買い物をしていたとき、いきなり櫻井さんに提案されて驚きながらも答える。一体どうしたというのだろう、何か面白いクイズでも思いついたのだろうか?
「じゃあ、いくよ。里が3つあります。何というでしょうか? 」
「里が3つ? 」
どういうことだろう、まるで意味が分からない。木が3つなら答えは森だろうけど里が3つとなると何になるのだろうか? もしかするとオレが知らないだけで里という文字が3つ集まった漢字が存在するのだろうか?
いいや! 櫻井さんのことだからそういった知識の問題ではないだろう。何かカラクリがあるはずだ……
「さとさん、さとみ、さとすりー、さとしー、さとみ」
とりあえず思いついたことを口に出してみる。これぞ必殺、『正解であると思ったワードを相手に聞かせ反応を見て正解かどうか見極める作戦』だ。
「惜しいけど全部不正解だよ」
櫻井さんが言う。
全部不正解はなかなか厳しいことがある。こうなったら大人しく……
「降参だよ櫻井さん」
降参してしまおう。これ以上考えても分からないのだから仕方がない、一体答えは何なのだろうか。
「そっか、ちょっと難しかったかもね、ごめんね」
「それで答えは? 」
「それでは第2問! 」
「え! ? 」
解答を言う前に次の問題突入に驚きを隠せない。
「美しい里のことを何というでしょうか」
「美しい里? 」
またもや里の問題だ。櫻井さんの間で今ブームなのだろうか? 丁度その時にお菓子コーナーに通りかかりたけのこのお菓子が目に入る。
なるほど、そういうことか!
閃いたオレは自信満々に解答を述べる。
「ズバリ、たけのこの里だね櫻井さん! 」
「どうして? 」
櫻井さんが首を傾げる。理由を尋ねるということはもう正解ということだろう。オレは確信を持ち説明をする。
「つまり、櫻井さんはきのこたけのこ論争ではたけのこ派だ。たけのこ派の櫻井さんにとってたけのこの里は素晴らしく美しい里のはずだ、つまり答えはたけのこの里! 安心して櫻井さん、オレもどちらかといえばたけのこ派だから! 」
「残念、それに私はきのこ派だよ」
「そうだったんだ、じゃあ今度2つが小分けされて入ってるやつ買おうね」
またもや不正解だったようだ。それにきのこ派だったとは……最初に確かめておくべきだったかなあ。
「うん! それじゃあ第3問! 」
もう解答を教えてくれないことには驚かないぞ。
「里美って5回言って」
「里美里美里美里美里美」
よく分からないけれど言われた通り5回言う。すると櫻井さんは自分を指差した。
「私は? 」
「櫻井さん」
「……不正解」
櫻井さんが残念そうに言う。不正解って櫻井さんは櫻井さんではないのだろうか? まさかオレが今まで櫻井さんだと思っていた人は赤木で次の瞬間にでもどこかにジッパーがあってそこから赤木が出てくるとか! ? いやさすがにそれはないだろう。しかし残念そうにしているけれどこれらの問題は今日の櫻井さんがどこか積極的なのとどこか関係が?
胸に手を当てて考える。これまでの問題に何か共通点がなかっただろうか…………あっ! そういうことか!
考えた結果、1つの答えに辿り着いた。恐らく付き合っているのにいつまでも「櫻井さん」呼びだったのが寂しかったのだろう、彼女は名前で呼んでほしかったのだろう! これまでの問題は彼女の名前である美里を引き出すための誘導だったのだ! そうと分かったらやることは1つ!
オレはわざとらしく首を傾げながら言う。
「うーんわからないなあ、答えは何? 美里」
彼女がハッと息を呑むのが聞こえる。
「………………さん」
しかし、情けないことに呼び捨てというのには慣れてないので恥ずかしさが勝ってしまいさん付けになってしまった。だが櫻井さんは嬉しそうに言う。
「大正解だよ修三君! 」
どうやら当たっていたようだ。今にして思えばこれでハズレていたら恥ずかしいなんてものではないので当たっていてよかった。
「ごめんね、付き合っていたのにいつまでも名字で読んでたのに気が付かなくて」
「ううん、私こそごめんね、急かすようなことしちゃって」
オレが頭を下げると彼女も頭を下げる。
「それにしても今日の美里さんは凄い積極的だったね、びっくりしちゃったよ」
彼女が笑う。
「そっか、修三君をイメージしたんだけどおかしくなかったかな? 」
そう言われて固まる。
オレをイメージした? つまりクイズが始まってからオレが感じた流れはそのまんま普段オレがさり気なく提案していると思って話を切り出した時に美里さんが感じているかもしれないということか!
となるとオレのクイズからの美里さんの態度に関して感じたことを振り返ると…………今までさり気ないつまりでも結構強引に、不自然な流れで話を切り出していたということか……
衝撃の事実にオレは力なく笑った。
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