第60話「ポップコーンバケットが欲しい! 」

 並ぶこと数時間、シューティングゲームを無事プレイし終えたオレ達を太陽が迎える。少し目が慣れるまで時間がかかりそうだ。


「楽しかったね~修三君凄い点数取るからびっくりしちゃったよ~」


 ハイスコアを出したオレを褒めるように櫻井さんは言う。


「ハハッ、まあまぐれだよまぐれ」


 それに対しオレは複雑な気持ちで答えた。


 というのもオレのこの鍛えられた射撃の腕は夏の海水浴の際の邪な気持ちから鍛えたものだったからだ。あの時は負けたほうが罰ゲームということでひたすら腕を磨いていたためこう純粋に褒められると申し訳なく思う。


 そして、もう一つ彼女に対して心で謝罪をしなければならないことがある。それはポップコーンバケットの件だ。この夢の国にはいくつかのハイクオリティなポップコーンバケットが存在する。現に今櫻井さんは可愛らしいリスのキャラクターのバケットを提げているわけだけどオレは先ほどのシューティングゲームの件でキャラクターへの想いが再燃しそのキャラのバケットが欲しくなったのだ!


 自分でも単純だと思う、しかしオレは欲しいのだ。それも櫻井さんには悟られずに! 理由は明確、動機は不純だったとはいえ尊敬してくれている櫻井さんにそんな単純な男だと悟られないためだ! !


 そのためにオレは今から計画を遂行する。今回の計画はこうだ! まず丁度いいオヤツ時間なのでさり気なくポップコーンを食べたいと言って狙いのバケットがある売り場へと向かう……これだけなら彼女の目を欺くには足りないだろう、故にその前に1つアトラクションを挟むのだ! 1度他のアトラクションを挟むことによる効果は大きいだろう!


「まだ時間もあることだからちょっと小さな世界に行ってみない? 」


「うん、久しぶりだから楽しみだな~」


 櫻井さんが快諾したので小さな世界へと向かう。


「櫻井さんは小さな世界に行ったら何をしたい? 」


「え、小さな世界か~子犬とかもっと小さくなって可愛いだろうな~修三君は? 」


「オレは、困っている人を助けたいかな。大きければ負けないだろうし! 」


「そっか、修三君らしいね」


「あ、でもご飯も小さかったら満腹になる前にその世界の食料がなくなっちゃうかも! 」


「大丈夫、私で良ければお弁当作るから! 」


「櫻井さんが! ? 」


 櫻井さんのお弁当だと! ? 是非食べてみたい!


「いや、もしもの話で……修三君が作ったほうがおいしいと思うし」


 失言だったと言わんばかりに俯き声を小さくして言う。


「そんなことないよ、オレなんて全然だから! 」


 待ち時間にそんな会話をしていたら順番が来たのでアトラクションを楽しんだ。


「面白かったね~」


 櫻井さんがオレに笑いかけたので笑い返す。


「うん、何回来てもワクワクするよ! 」


 話を合わせたなんてことはなく心からそう思った。


 さてと、アトラクションも楽しんだことだから作戦に移るとしよう!


「3時で丁度いい時間だなあ、お腹空いちゃったな」


 さも今思いついたかのように言う。


「じゃあ、軽く何か食べようか。何が良いかな~」


「ポップコーンが良いな! 今ものすごくポップコーンが食べたい気分! ! 」


 櫻井さんには悪いけれど勢いで押し切ろうとお腹に力を入れて声を出す。すると彼女は何かを悟ったようにすぐさま自らのバケットに手を伸ばした。


「修三君ポップコーンがそんなに好きだったんだね。ポップコーンならまだ残っているよ、はいどうぞ! 」


 そう言って1つのポップコーンを手に持ちオレの口に近付ける。


 しまった! ポップコーンなら櫻井さんが持っていた! ! ! 方針を変えなくては!


「…………ありがとう、確かにこのポップコーンは美味しいけれどオレが食べたいのは……麻辣味なんだ」


 と彼女から貰ったポップコーンを味わった後に言う。


「へ、へえ……そんな味があるんだ」


「そうなんだよ、オレも初めは驚いたけれどこれは食べてみるしかないよね! 」


 オレがそう伝えると彼女は頷いた。


 作戦成功だ! ある期間ごとに変わるらしいけれど今のオレの狙いのバケットは麻辣味のみ! 幸いレアな味ということも相まって華麗な誘導に成功したのだ! もうすぐだ、もうすぐあのバケットが手に入るぞ!


 喜びからオレの胸の鼓動は高まる。


「櫻井さん、あそこにあるのは」


 歩いた末に販売している場所に辿り着いた。さてと、計画の最終段階だ。さも偶然を装って購入しなくては!


「あーっ櫻井さんあそこにあるバケッt……」


「なるほど、そういうことだったんだね~」


 オレが白々しく言う前に櫻井さんがニヤリと笑いながらこちらを見る。


「な、何の話? 」


 既に勘付かれたのかという焦りからシャツには嫌な汗がジワリと滲んでいるもしらを切る。すると櫻井さんは「なんでもない」と意外にもあっさりと引き下がった。


「じゃあ、オレ並んでくるよ」


 そう言って列へと並ぼうとした時だった。櫻井さんが素早く何か操作したスマホの画面をこちらに向ける。そこにはオレが買おうとしているバケットと同じ作品のカンフーボーイたちのバケットの写真があった。


「え、え、これは一体」


 気付かなかった。あろうことかオレは見た瞬間1つのバケットに惹かれた結果、このもう1つのバケットの存在を見落としていたのだ!


「あ、あ……」


 スマホの画像とサンプルに飾られているバケットを交互に見比べる。


 ああ、どっちも欲しい……


「大丈夫だよ、今日どちらか1つ買ってもう1つは……また今度来た時に買おうね! 」


 オレの考えを読み取ったのか櫻井さんが笑いながら言った。


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