第43話「棒倒し」
海岸の端の釣りスポットとしても有名な大きな岩のお陰で影ができた砂浜でオレは横たわっていた。影のお陰か日の照らすところでは灼熱地獄の一環に感じた砂がひんやりと冷たくて心地が良い。
……それを首から下全体で感じることが出来るなんてなんてオレは幸せ者なのだろう。
オレはすっかり砂に包まれて動けなくなった身体を尻目にそんなことを考える。
「ふふふ、修三君可愛いよ」
そんなオレの様子を櫻井さんが小悪魔的な笑いをしながら見下ろす。そう、これはオレが彼女に水鉄砲勝負で負けたが故の罰ゲームだった。オレには見えないけれど真上から見ると胸の辺りが盛られていてナイスバディの女の子みたいになっているのだろう。ピロリン♪とスマホのカメラで写真を撮ったような音がした。
でも、オレはオレで一生懸命砂を集めて固める水着姿の櫻井さんを堪能できたので敗北と言っても嫌な気はしないな。
そう考えて誇らしげに雲1つ無い青空を見上げた。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「おお、身体が軽い! 」
30分くらいして解放されたオレは身体を動かせることへの感動からかひたすら腕を左右に振り回す。そんな様子を櫻井さんは微笑んでみている。
余裕だね櫻井さん、しかしオレの逆襲はここからだ!
口角を吊り上げるも即座に次のゲームの提案をするべくポーカーフェイスを装い偶然今思いついたように次のゲームの提案をする。
「櫻井さん、丁度こんなに砂が余っていることだし次は棒倒しなんてどうかな? 」
先ほどまでオレが仰向けになっていた付近を指差す。周りから砂を集めただけあって山のように砂が集まっていた。
「棒倒しって頂上に指した棒をお互いにすくっていって倒した方が負けってゲーム? 」
「よく知っているね櫻井さん! 」
丁度説明しようとしたところに彼女がルールを確認するように尋ねてきたのですっかり面食らってしまう。流石櫻井さん、こういった雑学も豊富ということか。しかし今回はそれだけではない!
「でも、今回はそれにルールを追加して砂をとる時に連想ゲームをしようと思うんだ」
「どういうこと? 」
彼女が人差し指を立てながら首を傾げる。オレも説明が得意なわけではないので実際にやってみることに決めて砂浜に座り込んで砂を両手でかき集めた。
「例えばスタートが『赤い物』だとするとオレが『赤い物』から連想される『リンゴ』を答えながら山から砂を取るんだ。そしたら次は櫻井さんが『リンゴ』から連想できるものを答えながら砂を集めるんだ」
「例えば『リンゴ』は果物だから『葡萄』とか? 」
「そうそうそんな感じ! 勿論罰ゲームアリで」
「良いよ」
彼女はすぐさま了承した。思わず頬が緩む。
…………勝った! 何故オレが『果物』等の特定のワードからではなくお互いが出したワードから連想するなんてややこしいゲームにしたのか。その答えはただ一つ! このゲームには必勝法があるからだ! !
そう、棒倒しというのはタダでさえどこまで取れば相手に棒を倒させることが出来るのかを考えなければならない頭脳もある程度必要なゲーム! そこに心理戦の要素を加えるのだ!
具体的にはまずオレが彼女に『天使』もしくは『女神』と答えるように誘導をする。そして彼女がそう答えた瞬間、すかさず『櫻井さん』と答える! そうなったら彼女は動揺しうっかり棒を倒してしまうことだろう……これがオレの作戦だ!
「じゃあ山を作ろうか」
彼女を見上げて一声かけるとできるだけ長く連想する機会が訪れるように大きな山を作る。すると彼女もしゃがんで砂を集めてくれた。
砂浜は10分ほどで完成した。大きな25センチほどの高さの山のてっぺんに誇らしげに拾った細い木の枝を刺す。その後2人で先攻後攻を決めるためのじゃんけんをした。じゃんけんはオレが「グー」で彼女が「チョキ」、オレの先攻だ!
「それじゃあ始めよう! 最初は何にするか……櫻井さん決めて良いよ」
公平性をアピールするためにオレが先攻ということなのでお題は彼女に決めてもらうことにした。オレの言葉を受けて彼女が頭を抱える。そんなに考えることなのだろうか?
「じゃあ、『テレビ』からスタートにしよう」
オレは頷いて胡坐をかき頬を書きながら考え始める。テレビか……
「『テレビ』なら『テレビ番組』! 」
そう言いながら長引くようにと少しだけ山の外側の砂を取る。それをみた櫻井さんがニヤニヤしながら口を開く。
「そんなに少しで良いのかな? 」
確かにこのゲームは最初に一気に取ってしまえば相手を追い詰めることが出来る先攻が有利なのかもしれないが諸刃の剣の作戦に加えてオレの狙いはそこではないのだ。だがこれをまんま彼女に説明するほど馬鹿ではない!
「櫻井さんとのゲームを楽しみたいからね」
と笑いを堪えつつ彼女に伝えた。
「そっか~、じゃあ『恋愛番組』」
答えながら彼女は砂を少しだけ取った。
それから30分、お互いに小さく砂を取っていくため棒が倒れないばかりかまだ半分ほど山が残っていた。連想ゲームの方は『恋愛番組』からオレが『クイズ番組』と答えそこから知っている芸人を挙げていくとオレの狙いからは程遠いほうへと行ってしまった。
櫻井さんが男性芸人の名を答える。もうチャンスはここしかない! !
……そう、このゲームには裏技が存在する。この勝負、オレが貰った! !
「『ガラスの靴』」
オレは誇らしげにそう解答して砂を一気に取った。
そう、このゲームは審判が存在しない……多少のゴリ押しなら可能だ!
「え、その芸能人さんと『ガラスの靴』ってどういう関係があるの? 」
彼女が不思議そうに尋ねる。どういう関係? 決まってるじゃないかそんなの……
「それはね櫻井さん……」
……答えられるわけがない。
「すみませんでした」
オレは彼女に頭を下げた。
「ま、まあいいから顔上げて! 芸能人さんからやろう」
てっきり「不正をしたから修三君の負けだね」と言ってくるだろうと諦めかけていたオレに意外にも彼女はオレの肩にポンと手を置き続行を促す。
「いいの? 」
見上げると予想以上に彼女の顔が近くにあったので顔がカアッと熱くなる。
「うん、でも今度説明できないこと言ったらそのときは修三君の負けだからね」
笑いながら彼女はそう言った。彼女の行為に甘え再び彼女の挙げた芸能人から連想を始める。すると、とあることに気が付いた。
「『特撮』」
「『特撮』? あの芸能人さん特撮の番組に出演しているの? 」
「そうなんだよ、9年前くらいだったかな。ハッピバースデー! ってよく叫んでいたよ」
「知らなかったよ~」
再び突拍子もないことを言い始めたかと思いきや今度は理由も説明できたのでセーフだ。納得した櫻井さんは『ヒーロー』と解答しながら砂をとる。それを聞いてオレは彼女に見えないように微笑んだ。
勝った! 『ヒーロー』、女性の『ヒーロー』といえば恐らくは王子様だろう。そして王子様といえばお姫様だ! そしてお姫様と答えたらオレが『櫻井さん』と答える……勝利の法則は決まった! !
オレは『王子様』と言いながら砂が少なくなってきた山から少し砂を取って彼女を見る。すると彼女がニヤリと笑うのが見えた。
まさか、彼女には彼女なりに何かの作戦があったのか! ? そしてオレがそのトリガーというべき言葉を発してしまった? いいやそれはない! だとしてもここから彼女の挽回は不可能なはず! ! 『王子様』といえば『お姫様』だろう櫻井さん?
もはや祈るような気持ちで彼女を見つめる。そんなオレに気付いたのか気付いていないのか一呼吸置いてから彼女が答えを口に出した。
「『修三君』」
え………………オレ?
彼女の答えに目を見開いた次の瞬間、「キャッ! 」という彼女の声と共に木の棒が倒れた。
「私の負けだね」
彼女がポツリと呟く。しかし、オレに勝利の喜びはなくただただ呆然としていた。
明らかに王子様とはかけ離れた作戦を考えていたオレが王子様? 一体どういうことなんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます