ホワイトデー特別編!「ハッピーホワイトデー」
ホワイトデー当日、オレは愛車の籠に赤いバラの花束とマカロン、キャンディーを入れた手提げバッグを入れてスーパーへと向かった。バラの花束を自転車の籠に入れて疾走する男なんて田舎では珍しいと我ながら思う。しかし、今日はホワイトデーなのだから仕方がない!
「こんにちは! 」
物珍しそうに視線を送る人たちに挨拶をしながら自転車を漕いでいく。10分程漕ぐといつものスーパーが見えてきたので駐輪所に愛車を止め花束とお菓子を持ち美里さんを待つ。
バレンタインデーの時もそうだったのだけれど、自転車で来ると隠す場所がないからサプライズと言っても帰り際ではなく出会い際になってしまうのが辛いところだ。
約束の15時丁度、美里さんの車がスーパーの駐車場に現れて停車する、それをみてオレはささやかな抵抗と花束とお菓子を背中に手を回して隠す。
「おまたせ修三君」
美里さんが近寄ってくる。気付けばオレまであと数メートルというところだ。
これ以上は、後ろに何かを隠しているとバレてしまう! というかこれ正面から来る人以外にはバラも何も見えているわけだからスーパーの前でバラを後ろに隠している変な奴に見えていたのか? まあそれはいいとして、ここだ!
「美里さん、これバレンタインのお返し! 」
残り1メートル、ギリギリサプライズが成功するであろう絶妙な距離でオレは彼女に花束とキャンディ、マカロンが入った小さな手提げバッグを差し出した。
「え、お返し! ? この前お返し貰ったよ? 」
「でもその後また貰ったからさ」
そう言って手を伸ばしてキョトンとしている美里さんに花束とバッグを近付ける。
「あ、ありがとう! お菓子に赤いバラ……え! ? 修三君これって……」
何故かバラに大げさに反応して顔をあげる彼女にすかさずオレは答える。
「うん、綺麗なバラには棘があるって言うけれど綺麗な美里さんに棘はないからね」
「…………? 」
何も言わずとも彼女の目をみて彼女の言わんとしていることが分かる。どうやらオレの考えた文句は彼女には刺さらなかったようだ、棘を絡めた話なのに。
しかし、ここで挫けている場合ではない! 3倍返しのために畳みかけなくては! !
「あとね、美里さんにアクセサリーをプレゼントしようとも思ったんだけれどオレセンスないからさ、今度一緒に買いに行こう! 」
それを聞くと彼女がビックリした様子で
「え、こんなに貰っちゃったのにアクセサリーまで? いいよいいよそんなに貰えないよ! 」
と首を振りながらやんわりと断った。そこでオレは間髪を入れずに言う。
「美里さん知らないの? バレンタインのお返しは3倍返し……でも、オレは3倍では収まらず4倍返しにするのさ! 」
そう、これこそがオレの考えた秘策、『料金と量を勘違いしている無知な自分を演じる作戦』だ! これならば一度に3つ渡しても怪しまれず更にはアクセサリーもプレゼントすることにより料金面でも3倍更には4倍返しも出来てしまうという素晴らしい作戦だ。
しかし、この作戦には欠点がある。
それは………………料金と量を勘違いするなんてうっかりな人はいないだろうということだ。故にすぐ
「流石にそんな勘違いしている人は無理があるよ~修三君は嘘が下手だな~」
こういった指摘をされるだろう、そこでオレはこう返す。
「ごめん、どうしても美里さんにアクセサリーを送りたかったけどセンスに自信がなかったからつい勘違いしているフリをしちゃった」
これで彼女にアクセサリーを送りつつ3倍もしくはそれ以上のお返しというミッションも達成して彼女を喜ばせることができる! ! ! ! さあ、美里さん!
オレはボケた芸人の様に今か今かと彼女のツッコミを待つ。しかし、オレの予想に反してツッコミはすぐさま飛んでこなかった。
「えーっと、貰う側の私が言うのもなんだけれど、それ多分値段のことだと思うな」
彼女が髪を触りながら言った。たちまちオレは「ごめん、どうしても美里さんにアクセサリーを送りたかったけどセンスに自信がなかったからつい勘違いしているフリをしちゃった」と用意していた返しをした。すると
「良かった~」
そう語る美里さんは肩の荷を下ろしたように晴れ晴れとした顔をしている。
……何その心底安心したみたいな様子は、まさかオレって素でそんな勘違いする奴にみえているのかな?
オレは眉をひそめるも彼女はそれに気付いていない様子で続けた。
「でもアクセサリーは遠慮しておくね。素敵なお菓子だけじゃなくて赤いバラ11本も貰っちゃったから」
彼女はどういうわけかバラの様に顔を赤く染めてはにかむ。
「待って、修三君赤いバラの花言葉って知ってる? 」
頭に?を浮かべていたのに気付いたからだろうか彼女がこんなことを尋ねてきた。
赤いバラの花言葉か、勿論知っている。それは……
「……綺麗なバラには棘がある、だよね? 」
そう、これのはずだ。それと絡めて不発だったけれどさっきあんなことを言ったのだから。でもそれが間違いなのは直ぐに分かった。それを聞いた美里さんが頬を膨らませたかと思うとたちまち意地悪な顔をしたからだ。
「やっぱり勘違いしてたんだ~赤いバラの花言葉はね、『愛情』なんだよ。それで本数が11本だと……その先は修三君に調べてもらおうかな」
不意に彼女が頬を両手で包んでオレから視線を逸らす。
しかし、オレはそんなことを気にしている余裕もないほどに混乱していた。
つまりオレは……みみみ美里さんにプロポーズをしたああああああああああああああああああ! ! ! ? ? ?
「残念だけれど修三君が意味を知らなかったなら無効だけどね~期待してるよ~」
彼女がからかう様に笑う。
「うん、頑張るよ! じゃあこれで」
そう言って立ち去ろうとするオレの手を彼女が握る。
「どこ行くの? 今から買い物するんだよね? 」
こうしてオレは恥ずかしい思いをしながらも美里さんと買い物をした。図らずともプロポーズしたみたいになったけれど無効と言われてしまった。
とはいえ、オレが意味を知らなかったのでこれで良かったのかもしれない。やはりプロポーズはちゃんと考えてから行いたい。それに美里さんが「期待してる」と言ってくれたってことはひょっとして……
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