第34話「喫茶店に行こう! 」
「長い戦いだった」
TOEIC当日、試験を終えたオレは長机とパイプ椅子がびっしりと並んでいた会場を出た後高いビルを背に誇らしげに空を見上げる。
「TOEICの文章はそこまで難しくはないけれど量が多いから対策しておいたほうが良いよ」
櫻井さんからの忠告で2週間ほど前から公式の本を買って対策しておいて良かった。心からそう思った、対策しておかなければオレの長文読解スピードでは何も気づかずに試験終了、終了と同時に頭を抱えていたことだろう。とはいえ、残りの長文4つほどは碌に読めなかったのだけれど!
「頭を使ったから甘いものが食べたいな」
現在地は我が愛しの故郷から車で2時間程のそこそこの都市、故に喫茶店や甘味処も勿論存在する。無論車で母にここまで連れてきてもらったのだけれど母は母で買い物という重要な用事があるのでまだ集合時間ではない。
「よし! お楽しみはこれからだ! ! 」
オレは浮かれながらその足で幾つもの商店街を駆け抜け最寄りのデパートまで向かった。
「お待たせ、櫻井さん」
「あ、修三君。試験はどうだった? 」
デパートで櫻井さんと合流する。そう、今日は久しぶりに都市に出ることにかこつけて櫻井さんと都市デートをすることにしたのだ! 斎藤さんは近くの劇場で映画を観ているらしい。
「櫻井さんのお陰で結構いい線言ったと思うよ! 」
彼女の質問に胸を張って答えると彼女ははにかんだ。
「さてと、じゃあ行こうか! 」
時間も限られているので出かけることにする。この街は商店街に娯楽施設とかなり揃っている。故にデートスポットには困らない!
「何処に行くの? 」
櫻井さんが当然のように尋ねる。それは勿論……
「サ店に行くぜ! ! 」
まずは喫茶店だ! 喫茶店でお互い行くところを相談する。漫画でみたのだけれどまさにデート慣れしている男のテクニックという奴だろう。加えて「喫茶店」ではなく「サ店」! これはかなり頼りがいがあるようにみえているのではないだろうか?
今頃彼女はオレを頼れる男、と認定して尊敬の眼差しでみつめて…………
期待を込めて彼女を横目でちらっと見る。
…………いなかった。
「…………」
彼女は無言で温かく見守るような目でオレをみつめていた。
「喫茶店に行こうか」
「うん、そうだね! 」
お互いのために先ほどのことはなかったということにしよう。そうしよう。
オレ達が集合したデパートは4階まで店があり1階は食品売り場に飲食店、2階はファッション売り場で3階は玩具、雑貨売り場で4階が書店となっている。
正直、田舎暮らしの今のオレにしてみれば東京では2日に2回は通っていた牛丼屋なんかも珍しいものだから久しぶりに寄ってみたいものだけれどデートとなるとなかなかに厳しそうなので今回はパスして彼女と2人で楽しむとしよう。
考えてみると喫茶店は昔受験の時に利用して以降入ったことがなかった気がするからレアな機会だ! 何より櫻井さんと一緒というのが良い!
2階で合流したので彼女の手を握りながらエスカレーターで1階へと向かう。エスカレーターを下るとラーメン屋、カレー屋と行った飲食店がまず視界に入る。いつもはこのデパートで食事となったらこのどちらかで迷うところなのだけれど今回は別だ!
オレはすぐさまラーメン屋に背を向けて喫茶店へと向かった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「喫茶店ってメニューが充実してるんだね」
「私もここのお店は初めてだったんだけれどこんなにあるなんてびっくりだよ~」
オレ達は喫茶店に入り2名と店員さんに伝え席に案内をされ、着席をしメニューを開いていた。木製の椅子やテーブルに優雅なBGMと落ち着ける環境であり驚いたことに最近の喫茶店はコーヒーやクロワッサンのほかにサンドイッチやパンケーキと食べ物を豊富だったのだ! せっかくだからパンケーキを食べるとしよう!
「櫻井さんは注文決まった? 」
しばらくして尋ねると彼女は首を縦に振ったので「すみません」と店員さんに声をかける。「はい」と落ち着いた声が聞こえやがてオレ達と同年代くらいのポニーテールの女性がこちらに音を立てずに素早く歩いてくる。
「パンケーキと……」
オレは一旦言葉を切り深呼吸をする。ここが勝負どころだ!
「アドショットベンティヘーゼルナッツソイミルクウィズエクストラホイップウィズチョコレートソースブラックコーヒーで」
練習していた呪文を唱える。忘れもしない受験生時代、何も知らなかったオレはブラックコーヒーとだけ注文してサイズやら色々と店員さんに聞かれ戸惑い時間がかかってしまうという失敗をした経験があっただけに今回は完璧だ!
「「…………」」
すぐさま「畏まりました」とメモを取るかと思いきや店員のお姉さん、それどころか櫻井さんまで固まってしまっている。
何だ? またオレは何かやってしまったのか……? 検索したのをアレンジしたのだけれどこれは大きなサイズのブラックコーヒーにチョコやナッツを入れて欲しいという呪文ではないのか?
「申し訳ありませんお客様、当店にそのようなトッピングはございません」
店員さんが我に返った様子で頭を下げた。続いて櫻井さんがオレに向かって囁く。
「修三君、それは別のお店の注文の仕方だよ」
何だって! ? 喫茶店ではこれが万国共通の注文方法なのかと思っていたけど違うのか! ?
「すみません、じゃあ普通のサイズのブラックコーヒーとイチゴ、ブルーベリーのパンケーキで」
オレが伝えると今度は先ほどの予想通り店員さんはメモを取り櫻井さんの方へ視線を向ける。
「私はアイスティーのMサイズとティラミスでお願いします」
店員さんはメモを書き終わると「少々お待ちください」と告げ店の奥へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます