第33話「宅飲みでハプニング! ? 」
「じゃあつまみも用意できたことだし始めようか! 」
「「乾杯! ! 」」
19時、タスマニアビーフを焼き終わったオレと櫻井さんは隣り合って座り乾杯をする。オレのグラスにはカルーアミルクが、彼女のグラスにはサングリアが注がれていた。
今日のミッションはただ1つ! 櫻井さんを酔わせて今後のために彼女の情報を沢山引き出すことだ! ! 彼女の門限は21時らしい。ここからは時間との戦いだ!
しくじってはならない重大ミッション、オレは自分に気合を入れるためにカルーアミルクを勢いよく飲む。
お、これは甘いぞ! 瓶に表記されているアルコール度数は高いとはいえ牛乳を混ぜているわけで表記通りということはないだろう。確かに体が熱くなるけれど意外とアルコール度数が高いらしいサングリアほどではないのでは? 2人きりだから警戒を解くためにこちらのほうが多めに飲まないといけないとは思っていたがこれなら問題はなさそうだ!
櫻井さんすまないがこのミッションはクリアしたも同然だ!
「このサングリア飲みやすいし美味しい! 」
そんなオレの企みを知らずにお酒を楽しむ櫻井さん。好都合とはいえちょっと危機感がなさすぎではないだろうか? と不安になる。
「このカルーアミルクも甘くて飲みやすいよ」
そう言って彼女の酒が混ざらないように用意していたもう1つのグラスに注ぐ、すると彼女は「ありがとう」とお礼をした後に今度はオレの開いているグラスにサングリアを注いでくれた。
「それでは改めて」
「「かんぱ~い! ! 」」
まさかの2度目の乾杯をする。本来乾杯は1度きりだとは思うけれど無礼講というやつで文字通りアットホームな飲み会だ!
ぐびっ!とサングリアを飲む。フルーツの味がする上にすっきりとしていて彼女の言うように飲みやすい。
「修三君の言うように甘いね、お酒じゃないみたい! 」
櫻井さんもカルーアミルクにご満悦のようだった。
それから30分、2人で酒の話をしていくも語る内容がなくなり数秒の沈黙が訪れる。
…………頃合いか
アニメでみる酔っ払いほどではないが櫻井さんの顔はほんのりと赤くなっている。対してこちらも隙を見て頬を触ったが熱を帯びていたので赤くなっていることだろう。
両者共に互いの酔いを承知しているこの状況…………作戦開始だ! 悟られぬように情報を引き出す! とはいえまだ饒舌になるタイミングかは不明なのでまずは慎重に……
「櫻井さんってさ、付き合ったこととかあるの? 」
慎重に……過去の交際経験を尋ねることにしよう。
「私? 私は付き合ったことはないかな? 」
彼女がグラスを置いて顔を伏せながら答える。
「嘘でしょ! ? 櫻井さん可愛いのにどうして! ? 」
そう尋ねると彼女は顔をあげてから意地悪く手を合わせて顔を傾けた
「それは秘密かな~」
…………しまった、まだ時期早々だったか! もっと酔ってから尋ねるべきだった!
悔やみながらフォークで1口サイズに切ってあるタスマニアビーフステーキを口に放り込む。フランベをしただけあって良い香りだ。
「そういう修三君はどうなの? 」
「オレかあ……」
こう聞き返されるのは自然な流れだ、まあそんなに隠す必要もないか。
「オレは彼女いない歴=年齢だよ」
「じゃあ、私と一緒だね! 」
彼女が口に手を当ててクスリと笑った。
いやいや、確かに状況は一緒だけれどステータスは全く真逆と言っていいほど違うじゃないか! 櫻井さんの場合は作りたくて作れないではなくて作る気がないという気がする。
と考えるも今の段階では先ほどのようにはぐらかされるだけなのが予測できたので尋ねる代わりに今夜のオレの頼もしい味方であるカルーアミルクを口に入れる。甘さの後に来る熱さが気持ちいい。
飲み会開始から1時間が経過する。
「せっかくだからテレビをつけようか」
と提案してテレビをつける。実はこれも偶然のように装って計算の内だった。前回の櫻井さんがTOEIC800点発言以降、何かで頼もしいところをみせようと密かにクイズの雑学を勉強していたのだ! 幾ら櫻井さんと言えど突然のクイズ番組に加え酔いが回っているとあればそう簡単に遅れは取るまい!
リモコンを押すとテレビ画面に事前にチャンネルを合わせておいたクイズ番組が表示される。丁度偏差値が高い東京の有名女子大のゲストが紹介され間もなく始まるというところだった。
「おお! クイズ番組か。せっかくだからこれをみてどっちが先に解けるか競争しようか! それにしてもこの人凄いね~そういえば櫻井さんってどこの大学通っていたの? 」
白々しく偶然を装い彼女とのクイズ対決にもっていきつつも思い起こせば聞いたことがなかったのでそう尋ねようとしたその時だった。
「あ、修三君! この子私の後輩なんだよ。凄い頭良いんだ~」
「え? 」
目を丸くして口をポカーンと開ける。医学部除く女子大偏差値トップ大学卒業者の前で凄まじいアホ面を披露してしまっているのが自分でも分かる。
「か、勝てるわけがない。もうだめだ! おしまいだ! ! 」
思わずオレは頭を抱える。
何! ? そんな良い大学出てたなんて聞いてなかったけど聞いてない! 調子乗って「負けた方が何でも言うことを聞くってことにしようか」とか言い出さなくて本当に良かった!
「大丈夫だよ、私そんなに頭良くないから」
そう言って彼女は慰めるようにオレの肩をポンポンと叩く。
それから櫻井さんにクイズでボコボコにされること30分……
「やっぱり櫻井さんは凄いよ」
「そんなことないよ~たまたま解ける問題が出ただけだって」
彼女が笑いながら謙遜する。それを聞いてオレは彼女に気付かれないように笑う。
そう、櫻井さん…………君は試合に勝って勝負に負けたのだ! オレはただ何かで酔いが回る時間を稼ぐだけで良かった!
これぞついさっきボコボコにされながらも考えた「肉を切らせて骨を断つ作戦」だ! かなり酔いが回っているようだし反撃の質問攻めを開始するとしよう!
「櫻井さんってよく何の音楽聴くの? 」
「洋楽かなあ」
……カラオケに誘って良かったのだろうか?
「誕生日っていつ? 」
「秘密だよ~」
…………ダメか
「さっきも聞いたけど櫻井さん位になると誰とでも付き合えると思うけどどうして誰とも付き合ってないの? 」
「それは私に魅力がないからだよ~」
………………この作戦ダメじゃん! さっきからオレばかりダメージ受けてる! !
「あ、もうこんな時間だ! 斎藤さん来ているかも」
彼女が時計を見て慌てて支度をする。タイムリミットだ! かといってももはやこちらの作戦は破綻しているので焦りなど微塵もない。櫻井さんが楽しんでくれたことを祈るばかりだ。
「送っていくよ」
そう言って立ち上がろうとした時だった。上手く立つことが出来ずによろけてしまう。
「修三君、大丈夫? きゃっ! ? 」
櫻井さんが支えようとしてくれたのだがそれも空しくオレは櫻井さんのいる方向へと倒れこんだ。
「ごめん櫻井さん! ケガはない? 」
慌てて彼女が怪我をしていないか確認する。
「びっくりしちゃったけど、大丈夫だよ修三君こそ大丈夫? 」
「オレは大丈夫だよ……」そう彼女の目を見ようとして先ほどは夢中で気付かなかったことに気付いた。オレの真下に櫻井さんの身体がある────オレは櫻井さんを押し倒した形になっていたのだ!
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れる。しかし、それ以上に凄い摩訶不思議とも思えない現象が起きていた!
「櫻井さんが2人に見える」
そう、目の前の櫻井さんが2人になっているのだ! それを聞いて彼女たちが心配そうに起き上がろうとする。ダメだよ櫻井さん、オレが好きなのは櫻井さんなんだから…………どっちも櫻井さんか。ということはこれはわが国でも合法のハーレム状態! ?
「落ち着いて、修三君! 」
気が付くと彼女達は既に身体を起こして膝で立ちオレを支えるように起こしていた。
「大丈夫だよ修三君、私1人で歩いて帰れるから」
彼女達はオレを後ろにある椅子にもたれるように移動させてから言う。しかし、そうはいかない!
「それはダメだよ! オレも行く! ! ちょっととはいえ女の子2人じゃ何が起こるか分からないよ! 」
問題ないことを証明するために勢いよく立ち上がる。そして玄関まで歩いていく……はずがなんてこった上手く歩けない! だがここで引くわけにはいかない! そんな様子をみて櫻井さん達が声をかける。
「修三君! じゃあこうしよう、ここの玄関から斎藤さんの車が見えるからもし私に何かがあったら出てきて! 」
なるほど、その手があったか。
オレはこくりと頷きながらホテルのボーイのように玄関のドアを開いた。
「じゃあね、今日は来てくれてありがとう。おやすみ櫻井さん」
「うん、修三君もおやすみ! それとね……」
彼女達がそこで目をそむけたがやがて勇気を振り絞るように両手で拳を作り再びオレを見つめた。
「私に彼氏がいない理由はね、まだ私の初恋が続いているからなんだよ! 」
そう言うと彼女達はオレが何かを言う前に颯爽と外へ出て行った。遠くで手を振る彼女に手を振り返す。やがて彼女達が車に乗って車が発進したのを見届けるとオレは自分の部屋へと向かった。
歯を磨き部屋の電気をつけると相変わらず散らかっているマイルームが姿を現す。かなり飲むことが予想されていたのと櫻井さんと出会う前に身体を清めておこうと考えていたのもあって既に入浴済みのオレは布団に転がり込む。
「櫻井さんの初恋の人か…………誰なんだろう? いや待てよ! 初恋の人がいながらもオレと2人きりで飲んだり映画を観たり……もしや! 」
信じられない、もしかして櫻井さんはオレのことを……
心臓のバクバクが更に大きくなる。このままでは身体を突き破りそうだ。
「まさかの両想い! ? やった! やったぞ! ! しかし、明日からどう接すればいいんだ? 告白の返事も考えなくては! いや告白ではないのか? 」
感泣ものの推測になかなか眠れないかと思われたがそこは酒の力かすぐさま眠りについた。
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翌日、頭を抑えながら起床する。
「あれ? 昨日櫻井さんと飲み始めてから……何話したっけ? 何か重要な話をした気がするのだけれど……うっ! 頭が痛い…………」
こうして、オレは酒の飲み過ぎには注意しようと心に固く誓ったのであった。
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