第26話「お家デート! ? 」

「お邪魔します」


 翌日、午前11時櫻井さんに有難いことに10時に待ち合わせて車で迎えに来てもらいスーパー買い物に行き、松風焼と夕食の買い物を済ませて彼女を連れて帰宅した。また斎藤さんにお世話になってしまったのは恥ずかしかった。自転車で行くというも結局は車のほうが2人の目的地はオレの家と同じなのだからそのほうが効率も良いという櫻井さんの言葉に甘えることにしたのだ。


「綺麗なお家だね」


 家に上がると彼女はそう言った。つられてオレも見慣れた自分の家を眺める。木造建築で廊下には何もなく入ってすぐ右は茶の間で畳の上にはこたつ布団をつければ冬は最大の兵器になるこたつ用のテーブルにソファがある。


『綺麗だね」


 思わず口に出す、勿論櫻井さんも綺麗なのだがそれを言ったらどうなるかは経験済みなので今のは彼女ではなくオレの家に対してだ! 何故なら…………昨夜必死で片付けたのだから! ! !


 今までは父と母が買った雑誌や取ったBD等は勝手に片づけて無くしてしまうことがない様に2人用のボックスを設けてそこに入れていたのだけれどそのボックスは排除! すべてを2人の寝室に置いてもらいそれでは不公平でだというわけでもないがオレの私物もほとんど自分の部屋へ持って行った。


 そこから更にいつもより念入りに箒で掃いたあとは台所のものも片付け床も丁寧に拭き包丁を研いで…………と色々とあって今の状態に至るのだ。女性がきゅんと来るらしいカーテンの刑というのをやろうとカーテンを綺麗にしようとしたけど、時間がなかったので残念ながらそれはまた今度だ。


 自分を褒めてあげたいくらい綺麗だと思ってもバチはあたらないだろう。


「こっちが台所だよ」


 そう言いながら茶の間を通り抜け彼女を台所へと案内する。台所には木造建築の家とは不揃いな気もする鋼色のシンクに赤色のレンジ、IHクッキングヒーターがある。基本、台所にも作業する用のテーブルはあるものの椅子はないので台所で調理したものを茶の間で座って食べるというのが我が家の基本スタイルだ。


「じゃあ、早速だけど始めようか」


 オレはそう言いながらS字型フックにかけた簡易エプロン掛けからピンク色のエプロンを取り出し彼女に渡す。


「可愛いエプロンだね、これはいつも修三君がつけているの? 」


「違うよ。それは母が何時も付けている奴でオレのはこれ」


 そう言って紺色の縫いが滅茶苦茶なエプロンを取ると結んで付けた。エプロンをつけ終わって顔をあげると櫻井さんと目が合った。


「どうしたの? 」


 と尋ねるも大体理由は分かっていた。オレのこの縫いが滅茶苦茶なエプロンのことだろう。実はこのエプロンは高校時代の家庭科の授業で作ったのを引っ張り出してきたものだ。裁縫が苦手なオレは苦戦しながらも何とか仕上げたのだが居残りをしてこの出来なのだから割と洒落にならないとはいえオレには思い出深い品だった。


 とはいえ、せっかくのデートだったし新しいの買っとくべきだったかなあ。


 今になってそこまで考えが至らなかった自分を悔やんでいると彼女がオレの問いに答えようと口を開いた。


「ごめんね! その、修三君が一生懸命作ったのが伝わるエプロンで修三君らしいなあって……」


 予想外の肯定的な意見に耳を疑う。


 櫻井さんはお金持ちなのにこういうのを受け入れてくれるのか……


 ますます彼女のことを好きになってしまいそうだ! いや今でもこれ以上ないくらい好きなわけなのだけれど……


「ごめんね、私エプロンつけたことあまりなくて……」


 そうこうしているうちに彼女がエプロンをぎこちなくも付け始めた。今度はオレが、彼女を見つめる番だった。


「エプロン付けるのなんて久しぶりだなあ、大学生の時以来だよ」


 ピンク色のエプロンはとても彼女に似合っていた。それもそのはず、100均とはいえ昨日プリクラを撮った後帰る振りをして彼女に似合いそうなエプロンを買ったのだから! ! ! 母親がつけているエプロンなんて言うのは嘘だ。


 とはいえ、似合うだろうと思って買ったものが本当に似合っていると嬉しいものだな…………と感心に浸っている場合ではない! せっかく彼女が1つ情報をくれたのだからそこから会話を広げていこう! !


「櫻井さんって大学時代料理してたんだ? 何作っていたの? 」


「うん、ご飯炊いて納豆ご飯とか作ってたなあ」


 なるほど、あまり料理とは縁がなかったようだ。かくいうオレも大学時代は調味料とか買うと高いので買った方が安い! とたまにしかしなかったのだけれど。そもそも彼女はお手伝いさんがいて今後も料理をしなくていいだろうにどうしたというのだろうか?


「でもね、怖いことがあってそれ以降ぱったりやらなくなっちゃった」


「怖いことって? 」


「お肉焼くときにフランベ? っていうのをやろうとしたら火が凄い出て驚いちゃってね」


「フランベ! ? 」


 フランベというのはテレビでよくみるフライパンの中にまで火がつくやつだ。まさか彼女は挑戦していたなんて……


「修三君はフランベするの? 」


 彼女がまさか今日やるのではないかと顔をこわばらせながら尋ねる。


「ごめん、オレはやったことないんだ。だからそんな顔しなくても大丈夫だよ」


 そう、オレはフランベはアルコール度数の高いお酒が必要ということと上級者向けのような雰囲気から敬遠していたのでやったことがない。肉を焼くつもりが間違えて家を焼いちゃいました! なんて洒落にならないことをしでかすのが怖かったのだ。香りがよくなるらしいからいつか挑戦してみたいとは思うのだけれど……ここで既に出来るようになっていて「今日はやらないけどできる」と答えれば頼もしくみえたかもなあ。


 オレの後悔はともかく櫻井さんはそれを聞いて「よかった」と笑顔になった。


「さて、櫻井さんの不安の種もなくなったことだし始めようか! 」


「はい、修三戦先生! 」


 櫻井さんに今先生って言われた! ? 頼りにされたぞ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! ! !


 こうしてオレと櫻井さんの料理が始まった。











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