第22話「自由の女神像」
初出勤の日の次の日、オレは再びスーパーの前に立ち誘導灯を振っていた。土曜日の次は日曜日なので他の人たちとは異なり出勤しなければならないのだ! 以前中村が休日も出勤しなければいけないと言っていたのは恐らく何かの間違いだろう、きっと。
昨日は初めての現場ということで緊張し慣れていなかったのもあり手間取った所もあったけれど、昨日よりは遥かに上手くなった!
昼休憩の時に昨日とは打って変わって青い空を見上げながら自分を褒める。そして、スマホを起動した。直後、「パイン! 」とスマホが鳴る。櫻井さんからのメッセージだった!
『問題、私は今どこにいるでしょうか? 』
メッセージとともに一枚の写真が送られていた、それは『自由の女神』の写真だった。『自由の女神』といえば一番有名なのはアメリカのニューヨークにある像だろう。しかし、オレと出会ったのは昨日の15時、そこから1日とたたずにこの田舎町からアメリカまで行けるのだろうか?
すかさずスマホで調べるとアメリカまでは飛行機でおよそ13時間、買い物を済ませた16時にそのまま5時間ほどかけて空港へ向かい飛行機に乗れば不可能ではなさそうだ。つまり答えはニューヨーク!
「なんてね、流石のオレでもそんな引っかけには引っ掛からないよ! 」
有名な話だがアメリカに行かなくても『自由の女神』の写真を手に入れる方法は存在する。オレはすかさずメッセージを打ち込んだ。
『ズバリ、櫻井さんの部屋でしょ? 』
そう、写真を手に入れるためにはわざわざ出かける必要はない。部屋でインターネッツから画像を取れば良いのだ!
大学時代、オレがSNSをやっていたころ皆が余りにも旅行の写真をあげるものだからオレも画像を取ってさも旅行したように上げようとしたのだけれど、「流石にそれは空しいしまずい」と思わず踏みとどまったことがある。
その経験がこの引っかけ問題に引っ掛からないことに繋がるだなんて人生何が必要になるのか分からないものだ、と感心する。
すると、櫻井さんからメッセージが届いた。
『私の部屋? その答えは予想外だったなあ。』
「え、違うの! ? 」
思わず声に出してまじまじと文字を見つめる。1文字ず繋ぎ合わせても「正解だよ。凄いね修三君! 」とは書いていなかった。
『じゃあ、ニューヨーク? 』
『違うよ~』
『アメリカ! 』
『はずれ~』
『地球の中! 』
『正解……だけどそれはズルいよ! 』
ダメだ………………全く分からない。そもそも今の時代だと画像を手に入れようとすれば手に入れられるのだから〇〇ちゃんの家! とかいうのもあり得るぞ! いやいや櫻井さんはそんなことはしないか。
「だとすれば……」
オレはニヤリと笑う。簡単だ、調べる方法が目の前にあるじゃないか! オレは素早くゴーグルに「自由の女神」と尋ねる。すると素早く候補が表示されるので1つをタッチし東京という項目をみつけたその時だった、オレの携帯が「パイン! 」と鳴りメッセージが表示される。
『カンニングはダメだよ~』
「ヒエッ……」と声をあげて後ろを振り向くとそこには……入った時と変わらないプレハブ小屋の白い壁が広がっているだけで誰もいなかった。
『どうして分かったの? 』
『そろそろ修三君が答え分からなかったら検索するころかな~って思って、まさか本当に当たっているとは思わなかったけど』
しまった、まだ誤魔化そうと思えば誤魔化しとおせたのか! これではカンニング野郎だと思われてしまうではないか!
オレががっくりとうなだれると再びメッセージが届く。
『正解は、もう知っていると思うけどお台場でした! 』
お台場か……そういえば昔お台場に行ったときに『自由の女神像』をみたことがあるようなないような。ところで、どうして彼女は今お台場にいるのだろうか? 昨日よくお見合いに行くと言っていたけどまさか………………
『今日はお台場でお見合いなの? 』
直球で尋ねる。確かにお金持ちというと東京に住んでいそうだしやはり櫻井さんも東京への憧れがあるのかもしれない。だとしたらマズい、非常にマズい!
不安に駆られていると彼女からメッセージが届く。
『ううん、違うよ~大学の友達と遊びに来てるの』
「なんだ、友達か」
思わず安堵のため息を漏らし『楽しそうだね』と返信する。櫻井さんはその人柄のお陰か大勢の友達に恵まれ今もその関係は続いているようだ。良かった。
「ってよくねえよ! 」
思わず椅子から立ち上がる。
そりゃ櫻井さんにこの田舎から都会まで会いに行きたいと思える友達がいることは嬉しい、では友達の性別は? もしかして男なのでは! ? そういえば、櫻井さんあの様子だと毎回お見合いを断っているみたいだけれどもしやそれは大学の友達と実はフォーリンラブな関係だからでは! ?
息が荒くなりスマホを持つ手が震える。
まずい、オレは彼女がどのような大学時代を起こったのはおろか大学すら知らなかった。大学生というのは特に一人暮らしの人は色々な束縛から解放された気持ちになりハッスルする人が多い。そんな楽しい日々を櫻井さんと過ごしたのが男だったら!?
目の前にあるスマホがグニャグニャと揺れ始めるのを見て慌てて深呼吸をする。
落ち着け! まだ男と決まった訳じゃない! ! そうだ、尋ねてみればいいんだ! いや、彼女からすると付き合ってもいないのにそういうのを聞くのは嫌がるかもしれない。でも気になる。何かそれとなく尋ねる方法はないだろうか?
結局、ゴーグルで検索しようにもこの状況を表す言葉が見つからないまま休憩時間は終了した。
オレがこうしている間にも櫻井さんと男はちゅ~とかしているのだろうか…………今すぐにでもお台場に行きたい! いいや、今のオレはケイビインだ! 一瞬の油断が命取りなんだしっかりしろ! !
男だったらという焦りからか揺れていたオレは、いつもより大きめに誘導灯を振り無理矢理身体を動かすことによって無事にその日の仕事を終えたのだった。
「櫻井さん! 今行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! ! 」
仕事が終わった直後、オレはバス停に向かって全力疾走していた。目的地は無論、お台場だ! 上手く尋ねることができないのなら直接確かめればいい! !
「あとは……偶然を…………ハア……装って…………合流するだけだ! 」
全力疾走のお陰かギリギリ発車寸前のバスに飛び乗ることができた。今から行くと東京につくのは深夜22時程位、カップルなのだとしたら最高の夜景を楽しみながら良いムードになる時間帯だろう。
夕方とはいえ田舎なので難なく空いているバスの椅子に座り時刻表を確認しようとスマホを起動すると「パイン! 」という音がする。言うまでもなく櫻井さんからのメッセージだった。
『友達とプリクラ取ったよ~修三君も今度一緒に撮ろうね! 』
画像とあったので彼女とのトークルームに入るとそこには櫻井さんと茶髪のポニーテールの女性との2ショットのプリクラ写真が貼られていた。
咄嗟に『うん! なら月曜日に会ったときに撮ろうか! 』と返信した。
「良かった~女の子だったのか」
オレはドッと疲れが出て椅子にもたれる。そしてゆっくりとスライドしていく景色を横目に呟いた。
「ただでさえ本数少ないのに……どうやって帰ろう」
バスは既にオレの町を通過し隣町のバス停をも通過したところだった。
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