第23話「就職しよう! 」
あのあと、バスで遠くまで行ってしまったオレは何とか徒歩で帰ろうとするもあまりに遅くなるため諦め親に迎えに来てもらい帰宅した。当然、何故隣町にいたのかを尋ねられたのだがそのまま説明するわけにも行かず「綺麗な夕陽をみたかった」と適当なことを言ったら信じられないことに納得してくれたのだ。
その夜、いつものように家事を終えたオレはパソコンの画面と向き合う。
……このままじゃダメだ!
帰宅後オレは拳を握りしめた。昨日、櫻井さんが毎週ペースでお見合いをしていることが発覚した。勘違いだったとはいえお見合い相手と今日みたいにお台場へランデヴー! という日もそう遠くはないのかもしれない。
そう考えたのでオレは家事をお手早く終わらせて長い時間パソコンで調べ物をしていた。
「遂に見つけたぞ! 」
オレは画面をみてニヤリと笑う。オレが見ていたのは求人情報だ! そう、オレは就職をすることにしたのだ!
丁度春も過ぎ去ろうとしているこの時期は主に新卒目当てとはいえ求人情報が豊富に表示される正に就職シーズン!
だが大学自体有名ではないうえに数年のブランクがあるオレは書類選考落ちをしてしまうのではないか?
とまず疑問が浮かんだので今まで厳選に厳選を重ね履歴書を送る先を調べ上げていたのだ! そして2つの候補ができた。
1つは公務員。
30歳になるまでトライすることができる安定した職業だ。中村の様子が気掛かりではあるがやはり安定しているし田舎だと公務員というだけで持て囃されるとも聞いたので櫻井さんとの結婚を考えるのなら最適な職業だろう! とはいえ以前面接で落とされたので望み薄という大問題がある。
もう1つは私立大学職員だ。
何と残業するときは残業代が出る上に40代から給料が1000万に到達するとかしないとか。近頃はその噂も飛び交い人気職となり倍率は募集も少ないのもありかなりのものとなっているらしい。
それだけ高倍率なのならばブランクもありだし不可能だとも考えたのだが勝機はある……4年間通っていた大学に志願するのだ! ! これまた噂だが私立大学によっては卒業生から取るというところもあるようだ。まあ履歴書を送れば即採用……というほど楽観的には考えていないのだが書類選考位は通ることだろう。大まかな大学職員の流れだとそのあとはそこからのWEBテスト、面接が本番のようだ。
詳しく調べるために昔通っていた大学のHPを開く。どうやらまだ募集は始まっていないらしく去年の情報だったが形式が分かれば十分だ!
「まず、書類選考&作文で次にWEBテスト最後に面接か」
どうやら我が母校もその形式のようだ。履歴書は大学が用意したものが必要ということでそのデータを表示する。
「自己PRに特技にTOEICに…………TOEFL? 」
TOEFL? TOEICなら知っているけれどこれは何なのだろう。調べてみるとどうやらスピーキングも加えた英語の試験らしい、TOEICより難しい奴ということか。
ここはバッチリ記入したいところだけれど……
「英語かあ…………」
そう、オレは英語が苦手なのだ! 英単語の意味を覚えても1つの単語が幾つも意味を持っていてややこしいのに更に2つくっつくと意味が変わったりするのもあって混乱してしまう。
極めつけは前置詞だ、どこでどれを使えば良いのか分からない。高校時代英作文のテストで語呂が良いからと適当に突っ込んでいたら何とクラス最低点を記録した! その後猛勉強してクラス6位になり教師を驚かせたのだけれど教科書から問題集まで文を丸暗記するといったゴリ押しだったので全く英語は理解できていないようなものだった。
そんなオレがTOEICで履歴書に書いても恥ずかしくないくらいの高得点を! ? 調べると平均点が600点位なので600点は取らないといけないとあるのだがそんなことできるのだろうか?
「修三君、修三君はそれだけで諦めてしまうの? 修三君の私への気持ちはその程度だったの? 」
櫻井さん(幻想)がオレ脳内で訴える。
「そうだ、櫻井さんと結婚するためならオレは…………オレは大学職員になって櫻井さんと一緒に東京に出るんだ! ! 」
「オレと一緒に東京に出てくれないか? 」これはクサくもなくなかなか格好良い告白の言葉ではないだろうか? オレはこの言葉を彼女に言いたい、それに赤木と過ごした大学生活は楽しかったしそんな我が母校のために働きたいという気持ちに嘘はない!
「よし、やるか! 」
オレは勢いよく頬をパン! と手で叩き気合を入れた。早速直近の書類選考に備えてTOEICの単語帳と文法と長文の書籍の購入を確定させる。
「さてと、お次は櫻井さんだ」
そう、これでオレが就職だけに傾いてしまうと「仕事と私どちらが大切なの? 」問題が発生してしまうので同時に櫻井さんとの関係も前進させねばならない。
手を繋いだらその次は………………ハグだ!
ハグとは手を握るとは異なり手以上にお互いの身体が触れ合う正に禁断の行為! キスよりも触れ合う面積が広く下手すると胸が当たってしまう可能性があるためキスよりも難易度が高いかもしれない! しかし、そんな行為を国によっては男女関係なく別れの挨拶などでやっているというのだから驚きだ。
「ハグかあ……」
想像しただけで頬が熱を帯びる。下手すると櫻井さんの胸がオレの身体に! ? ここからは恐らく赤木でも経験したことのない未知のエリアだろう。一体どんな感触なのか? もし触れたときオレは正気を保っていられるのだろうか?
かなり邪な考えになっている気がするがそのことからもハグをする難易度はかなり高いように思える。ムードが大事だろうがどうやって誘えば良いのだろうか? 機会としては次のデートの時がよさそうだけれどそもそも次のデートのプランも考えていないので考えなくてはいけない! とはいえ、田舎での他の遊びとなると………………時期を考えると浮かばない。
「そういえば、プリクラ取ろうって約束してたな」
そうだ、プリクラだ! プリクラを取るときにダメ元で頼んでみよう!
オレはそう決めて書籍の支払いをするべく財布を持ってコンビニへと向かった。
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