第17話「カラオケで何を歌おう」
櫻井さんをデートに誘った翌日、遂に彼女とのカラオケデートを明日に控えたオレは6日前のように机に這いつくばるようにして頭を抱えていた。
「カラオケで何を歌えばいいんだ………………」
カラオケとは膨大な量の曲の数の中から歌を歌う。選択肢が多いと悩んでしまうオレにとっては必然的にぶつかる問題だった。89点を取った曲はゲームのOP曲だった。良い曲とはいえ初めてのカラオケデートで歌うのは憚はばかられる。
「皆が知っている曲が良いよなあ」
天井をみつめてポツリと呟く。
個人的に知っている曲のほうが盛り上がるタイプなので櫻井さんもそうとは言えないが、先のゲームのOP曲はもっと彼女と仲良くなってゲームをプレイやらして曲を知ってもらってから披露することにしてできるだけメジャーな曲を歌うのにこしたことはないだろう。
………………じゃあメジャーな曲とは一体?
メジャーな曲と言っても野球のアニメのOP! と一つに絞れる訳もなく何年にヒットしたや人気グループが歌っていると様々で1年に数曲と考えても年の数だけで3桁は越えるだろう。絞れたものの絞り切れていない。
「櫻井さんはアイドルが好きなのかな? いや、アイドルは無しだ! 」
メジャーな曲というと昨今では音楽番組のランキング上位をほぼ独占するほどアイドルが強いと思う。アイドルの曲を歌えば知名度も考えてまず間違いはないだろう! ではなぜやめたのか、それは………………ちょっと妬けるから。付き合う前から妬けるって何だよという話だけれど何かモヤモヤしてしまうので仕方がない。勿論、彼女がコンサートに行きたいと言ったら一緒に行きたいとは思うけどこちらから切り出したくはないかな。
「いや、待てよ………………」
そこまで考えて1つ閃いた。思わず机から立ち上がる。
「女性アイドルグループの曲を歌えば良いんだ! 」
思えば高校でリア充だったグループですらアイドルの話をしていた。そう、つまり男がアイドル好きというのは普通ということなのだろう! 更にはその女性アイドルグループは女性にも人気があるという、もしかしたら櫻井さんも好きなのかもしれない! 歌う曲の1つは女性アイドルグループの曲で決まりだ! ! !
「さて、あとは………………」
数曲は女性アイドルグループにするとして流石に全部女性アイドルグループというわけにもいかない。
「女性と2人きりでカラオケとなると恋愛ソングが定番かな? いや駄目だ! 」
定番の恋愛ソングは却下、何故かというと好きなのかな? と好意が伝わってしまうかもしれないから。気にしすぎかもしれないけれど恥ずかしい。
「おお、そうだ! 」
いいアイデアが浮かんだ! 特撮の曲にしよう!
といってもただの曲ではない、最近の特撮の曲はさり気なくヒーローの名前を歌詞に忍ばせていてそれ以外は一般向けの曲と変わりないくらいの良い曲なのだけれど加えてオレが選ぶのは様々な音楽番組や年末の歌合戦でも披露された曲だ。歌手も男性だしダンスは出来ないけれどいけそうで何より番組での熱かったあのシーンやこのシーンが浮かんでテンションが上がってエキサイトしながら歌えそうだし知名度も最高だろう。
それに何より、歌うばかりかあのダンスを完璧にとは言わないが踊れるようになったら櫻井さんも「格好良い! 」と見惚れるはずだ!
「あとは………………せっかくのカラオケだし一緒に歌える曲が良いな」
そう、カラオケというのは1人が歌って1人が聴いたり合いの手をするのもいいけれど一緒に歌うというのも醍醐味の1つだろう。ゆくゆくは櫻井さんと2人で恋愛ソングをデュエットして海、川、山、道へ繰り出したいところだが今は我慢だ! まだそれはオレ達には早すぎる!
「となると何を歌えば良いのだろうか? 」
そうなるとデュエットというのは一番ハードルが高い気がする。お互いが知っている曲かつ盛り上がるであろう曲とこれまでの総復習とでもいうような選曲の難易度だ!
これに関しては現地で櫻井さんと相談して決めるのが無難なのだろうがオレとしてはここでバッチリと彼女も知っている好きな曲をズバリとあててかつ事前に練習をしておき華麗に歌い上げ男を見せたい!
しかし、オレの知っている情報は余りに少ない。恋愛系のドラマが好きなことと小中学校時代の記憶だけだ。ドラマの主題歌なら知ってはいそうだけれど恋愛系のドラマというと必然的に主題歌も恋愛系の歌詞になってしまうだろう。
「小中学校時代かあ………………でも櫻井さんとそんなに話したわけでもないしなあ」
小中学校時代はオレにとって女の子に話しかける=周囲に好意がバレてしまうことだと思っていたので基本櫻井さんはおろか他の女子にも話しかけることはできていなかった。まあそんなオレの意思関係なく櫻井さんは休み時間は男子か女子に囲まれている人気者で話しかけることは困難だったのだけれど。
「かくなる上は………………お願いゴーグル! 【カラオケ 好きな人】」
スマホに話しかける。最近の検索は便利で文字を打たなくても話しかけるだけで検索してくれると便利になったものだ。
「なになに? ………………ってこれ女性向けじゃないか! 」
危ないところだった。思わず女性らしい仕草を彼女にしてしまうところだった。とはいえ、これらの点はオレが気遣えるようになっていても損はないだろう。
気を取り直してとあるランキングを見て1位を調べると、これはオレでも年末など様々な機会に歌ったことのある曲だ! これにしよう! ! いやでも櫻井さんが歌うには派手すぎるだろうか………………?
「やっぱり曲選ぶのって難しいなあ」
そう呟いて身体を起こして今度は椅子の背もたれに思いっきりもたれかかった時だった。1つのアイデアが浮かんだ。
「校歌とかどうだろうか? いや駄目だ、カラオケにはオレ達の小中学校の校歌なんて入っているはずもないか。とはいえ発想は悪くないぞ! 」
しばらく再びぐったりとしながら考えていると最高のアイデアが閃いた! 思わず椅子から立ち上がる!
「これだ、これしかない! あまりに天才的な発想! 櫻井さんが感動のあまり驚く姿が目に浮かぶようだ」
そしてそのあとにはいつもの彼女の素敵な笑顔が………………
オレは有頂天気分で今日歌うと決めた曲で持っていないCDを通販で購入することにした。こういうことになると通販は便利で何と早くて明日には到着するようだ。CDにはカラオケ練習用におあつらえ向きの「instrumental」バージョンがある。それで練習をして当日華麗にハイスコアを取れるようにしよう!
「こんな高得点が取れるなんて修三君凄いよ! 」
ああ、櫻井さんがオレを尊敬の眼差しでみる姿が目に浮かんでくる。
オレは早速、歌う予定の曲の鼻歌を歌いながら支払いのためにコンビニへ向うのであった。
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