第13話「劇場内ではお静かに」
予告が始まった。本来ならばここで「この映画面白そうだね!今度観に行こうか!」と次のデートの約束に取り付けたり怖いシーンやロマンチックなシーンで手を繋いだりと色々とできていたはずなのに!なんでオレと櫻井さんとの間に運転手の斎藤さんがいるんだ!!!
そんな嘆きも忘れ、何とオレは映画に見入っていた。やはり映像になると迫力が違う!そして物語は感動のクライマックスにさしかかる5分ほど前というその時!
「修三様、ちょっとよろしいですか?」
斎藤さんが隣で囁く。
「どうしました?」
まさか櫻井さんの身に何か!?慌てて彼女を見ると彼女もこちらをみて手を合わせて何度も頭を下げ謝るようなジェスチャーをしている。
「実は、修三様にポップコーンを食べていただきたくて…!」
みると斎藤さんの手にはポップコーンの容器があった。かなり残っているみたいだ。運転手さんは3人で食べようという意味で大きいのを注文したのかもしれないけれど映画に集中していてすっかり忘れていた!2人とも知らずに今まで何とか食べ切ろうと努力していたのだろうか?
「ごめん、オレも協力するよ。」
国によっては投げる場合もあるそうだけれどそれは酷い映画の場合だったかな?とにかく投げるのはいけないから食べ切るとしよう!!オレはポップコーンを音を立てないように静かにかつ素早く食べ始めた。これはかなり塩が聞いてて美味しいぞ!
映画のシーンが遂にクライマックスに突入する。同時にオレの胃袋もクライマックスに突入だ!もっと昼飯を減らしておくべきだったか?しかしこれはこれで映画の緊迫感がより際立っていいかもしれない。
そして映画は感動のラストを迎えた、それと同時にポップコーンの容器が空になる。
ふう、何という感動的かつすっきりしたラストだろう。
EDが流れ始める、すると斎藤さんが席を立った。最後までいて混むのが嫌なのだろうか?
「斎藤さんどうしたの?」
「分からない、車に戻ったのかな?」
櫻井さんもどうやら彼の行動は把握できていないようだ。しかし映画が終わった後の最初の会話が斎藤さんの話題ってのもどうなのだろう?正確にはまだ終わってないのだが………
やがて上映が終わりシアターが明るくなる。それと同時に人々が動き始めた。
「面白かったね。」
オレは櫻井さんに声をかける。人がいなくなるまで待とうと言おうとしたけどやはり上映後の第一声は感想が良いと思った。
「うん!観に来て良かったね。」
「少しこのまま座っていようか?」
そう言うと彼女は再び「うん。」と頷いた。
数分待って人がいなくなったのを確認するとオレは櫻井さんと外に出る。シアターを出たその時だった。
「ねえ、君可愛いね。良かったらこの後お茶とかどう?」
茶髪の青年がオレが視界に入っていないかのように櫻井さんに声をかける。櫻井さんが「すみません、結構です。」と断って進もうとすると
「良いじゃん、君俺のタイプだからさ!今から遊びに行こうよ~」
男は櫻井さんの腕を掴んだ。
この男、オレがあれだけ色々考えても握れなかった手を掴んだだと………?
思わず拳を握りしめる。
だが待てよ?何かイケメンだし行動力あるしこの行為は女性からすればドキッとするのかもしれない。ここからまさかの櫻井さんとの恋愛に発展する可能性も………
急に不安になった。オレは櫻井さんの表情を確認する。彼女の顔は以前のように怯えていて助けを求めているような顔だった。ならば迷う必要はない………しかしこういうとき何といえばいいのか………流石に好きな子がナンパされたときのケースなんて調べてないぞ?ええいままよ!!!
「あの、お兄さん格好いいんだからさ。こんな強引な手に出なくてもいいんじゃないかな?彼女嫌がってるよ?」
「は?」
声をかけると男がこちらを振り向いた。
「お前、クライマックスでポップコーンめちゃくちゃ食ってた変な奴じゃねえか!格好つけてんじゃねーぞ!お前この子の何なんだよ!?」
男がこちらに詰め寄り大声を上げる。その声に驚いて帰り始めていたお客さんの何人かが立ち止まりこちらを振り向いた。
オレは彼女の何なのかか………考えてみると厳密に言うと幼馴染ということになるのかな?友達以上恋人未満というやつかもしれないし知り合い以上友達未満かもしれない。オレには櫻井さんがオレのことをどう思っているのかが分からないので答えにくい質問だ。
………しかし、ここではそんな曖昧な返答ではダメだ!櫻井さんには悪いけどハッタリ…いやいずれそうなるであろう予告、決意表明として言わせてもらおう。
「オレは!この子の!!彼女だあああああああああああああああああああああああ!!!」
オレは男にハッキリとそう告げると呆気に取られている男を置いて「行こう。」と櫻井さんの手を引き出口まで歩いて行った。
幸い上映中の劇場は閉まっていたのだけれど立ち止まってこちらをみていた人たちには聞こえてしまったようで何やらしきりにオレ達をみて囁きあっていた。
「ごめんね、急にあんなこといって。………怒ってる?」
デパートを出て駐車場に向かう途中声をかける。ここまで櫻井さんは一言も言葉を発していなかった。もしかしなくてもオレが櫻井さんの彼氏を名乗ったことを怒っているのだろう。気のせいか頬が赤くなっている。これは激怒というレベルかもしれない。
オレは彼女を固唾を飲んで見守る。
「え、いや、ううん。怒ってないよ。ま・た・助けられちゃったね、ありがとう!格好良かったよ修三君!」
何と彼女はオレに感謝をした。
良かった、特に怒ってはいないようだ。むしろ格好いいと言われて悪い気はしない。ところで、また………?オレはかつて彼女を助けたことがあるのか?思い当たる節がない。もしかしてオレは知らずに彼女を助けていて運命の赤い糸で繋がれているのかもしれない!!!しかし、何のことだろうか?尋ねてみようか。
「また?オレは前に櫻井さんを助けたことがあったっけ?」
「え?」
櫻井さんが目を丸くしたがたちまち悲しそうな顔をした。
しまった!悪手だったか!!知ったかぶっておくべきだったか………彼女にとっての大切な思い出なのかもしれない、それをオレは心当たりがないと言ってしまったのはまずいか。
「あのね………」
「申し訳ございません。お嬢様、修三様。」
そこに斎藤さんが駆けてきた。
「あれ?車に戻っていたんじゃ………」
目の前に現れた斎藤さんに櫻井さんは驚き再び目を丸くする。
「実はお手洗いのほうに………失礼いたしました。それで戻ろうとしたところ修三様の声が聞こえあまりのことに呆然としばらくしておりましたら行ってしまわれたので慌てて追いかけてきた次第でございます。お嬢様、素晴らしい彼女さんができてよかったですね。」
どうやら先に車にいるというのは勘違いだったようだ。それにしても先ほどのことをみられていたのは恥ずかしい。でも1つ気になったことがある。今斎藤さんは彼女といった。言い間違いだろうか?いいや、こういうのは指摘されると恥ずかしいものだから指摘しないでおこう。
「ハハハ、ありがとうございます。僭越ながら斎藤さんの代役を務めさせていただきました。何はともあれ櫻井さんが無事でよかったです。ハハッ!」
先ほど同様好青年スマイルで返すと斎藤さんは頭を下げて駆け足で車に向かった。
「それでさっきの続きだけれど………」
斎藤さんを見守ってから櫻井さんのほうをみて切り出す。しかし彼女はニッコリと笑った。
「ううん、何でもない。ごめんね私の気のせいだったかも。修三君は修三君だから!」
まずい、オレは今非常にもったいないことをしたのではないか?実はオレによく似た人が以前彼女を助けていてそれをオレと勘違いしていたとか?だとしたら厳密に言えばいや厳密に言わなくてもそれはオレではないわけだからむしろこうなってよかったのかもしれない。
「ありがとう。あ、斎藤さん待たせたらまずいし行こうか!」
彼女は頷いてオレと一緒に車に向かった。
そうだ!櫻井さんが何か勘違いをしていたならここからがオレの新しいスタートだ!よりいっそう頑張らなくては!!
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