第3話「既読」
愛車の漕ぐスピードを速めダッシュで家に帰り買い物袋を置き手洗いうがいを済ませた後素早くスマホをテーブルに置き床に正座をしフゥーっと深呼吸をする
さて、ここからが重要だ。そう、勝負はここからである。彼女からメッセージが送られてきたのは僥倖! しかしこれはどちらかといえば定型文! ! ! ただの知り合いにも送る文であろうなのである! ! ! 実際オレも大学時代好きな子とパインの交換まではいった。初めのここまでは踏み出せた。
しかし、問題はここからだ! ここでミスをすると大学時代はここから1週間後に返信というループに陥ってしまった! それも1人2人ではない………………3人だ! ! ! 学年の違う3人が示し合わせたように3人とも1週間後に返信をしてくるようになったのだ! これは恐らく脈ナシのサイン! ここでミスをするといつもの興味ない男ルートに行ってしまうだろう!
いつもの興味ない男ルートに行くとジ・エンド! 疑問文を送ろうが1週間ループに嵌り碌な会話もできずに終わってしまう! これは恐らく女性からの暗に興味ないというメッセージか? それとも女性は女性同士でもラインが1週間毎に変身が普通で数時間以内には返すオレの家族や大学時代の男の友人の赤木がオレのことをよっぽど好きなのかのどっちかということになる。
しかし、幾ら昔の同級生とはいえこれはつらい………………ならオレはどうするべきかを考える。
………………どうにもならないな。
それが考えた末のオレの結論だった。とはいえ、最低限彼女が返しやすいような文面を考えることはできる。
まずは共通の話題探しだ! オレ達の共通の話題と言えばやはり小中学時代だろう! いや、それほど強気になるほど思い出もないしできれば思い出したくもないが………………ならば! 小学校時代だ! 小学校時代の話題で攻めるとしよう!
さて、オレは小学校時代何をしていたか………………………………特に思い浮かばないな。
オレは頭を抱える。昼休みは友達と木蹴り、放課後はゲーム、そんな小学生時代を送ったオレに彼女と話せるような話題はなかった。中学も同様だ! ! !
マズいぞ………………これはマズい。
浮かなばなかったので手法を変える、共通点がなければ質問攻めだ! 何かのテレビ………………はオレは最近みていないし今からでっち上げるのも無理か。そうだ、小説だ! 最近読書を再開し利根川乱歩の『中年探偵団』
シリーズを網羅を目指して頑張っている。ここから………………無理か。面白いとはいえ子供向けはマズいかなあ。
ああそうだ、趣味を聞くなんてどうだろう? これなら可能性があるかもしれない! ! ! いや待て、彼女への返信が先だ! 彼女への返信文を考える。
『実はオレも心細かったから櫻井さんに会えて嬉しいよ! これからよろしくね! ! 』
これでどうだろうか? 彼女への好意をそれほど前面に出さなつつこれからもよろしくの文章………………完璧だ! オレは送信ボタンを押し送信した。
さて、次はここで畳みかける!
『趣味は何? 』
そう打ってすぐ消去する。いきなり用件だけってそっけなさすぎるだろう! 基本オレは要件しか書かず大学の講義の感想記入の時にも苦労をした。何故周りの人間はペンを止めずに何行も何行も書けるのか不思議だったがあれが必要なスキルだったのか! ! ! 何か文を考えなくては………………! そうだ! 実体験だ。感想欄を稼ぐには実体験を書くと良いと聞いたことがある! ! !
実体験か………………少し悩んでからオレは以下のような文章を打ち込んだ。
『櫻井さん、あなたの趣味は何ですか? というのも私は人と人が仲良くなるためには会話、特に共通の話題が必要だと考えています。もしかしたら2人とも趣味が同じで話が合うかもしれません。何故そう考えるのかというと私の大学時代の友人に赤木という方がいます。何を隠そう私と赤木が仲良くなったきっかけが共通のゲームという話題でした。私たちはお互い趣味が判明するまではほとんど話さない間柄でしたが、偶然これが落としたゲーム機を私が拾ったことによりお互いゲーム好きと判明して話が弾み交流が始まったのです。このように人と人人が交友を深めるのには共通の話題が必要だと考えます。なのでよければ櫻井さんの趣味を教えていただけないでしょうか? 』
………………なんだこれ?
レポートみたいに少し硬い文章になってしまった。勿体ないからどこか使える場面はと一応探るもいきなり口調が変わっていることからアウトだろうので全消去する。
さてマズいぞ。こうしている間にも時間は刻一刻と流れている。既に既読はついた。ならばシンプルに
『いつも何やってる? 』
これで行くべきだろうか? いつもやっていることといえば=趣味だろう。念のため語尾に(笑)をつければ好意を誤魔化せるかもしれない! ! いや、お前は彼氏か! となってアウトだろうか? ぐうう分からない! でもここまで何もしないと始まらない! これで行こう! ! ! もとより身分の違う身だ! ダメならダメで元々だ! ! !
オレは半ばやけになって『いつも何やってる? 笑』と打ち込み送信しようとしたその瞬間、オレのスマホが「パイン! 」と音を立てた。何と彼女からのメッセージだ! オレは急いで確認する。
『よろしく! ところで修三君はいつも何やってるの~? 』
「それ聞いてもよかったんかい! ! ! 」
思わずスマホに向かい大声で叫ぶ。このオレの数分間の苦悩は一体………………とはいえ彼女から質問が来たというのは僥倖だ。ここは慌てず騒がず返答をするとしよう。
趣味か………………ここは重要だぞ。素直にゲームと答えると女性からの得点は低いだろう。最近はゲームしているというわけでもないし。オレの場合は読書が無難な気がするが相手は資産家のお嬢様だ。昔「ポロ」という趣味があるのを聞いたことがある。名前からしても高貴な雰囲気が漂ってきているし彼女からのポイントも高いだろう………………「ポロ」にしよう! オレは早速打ち込み返信する。
『趣味はポロかな! ! ! ! 』
どうだ、櫻井さん。これ以上ない完璧な解答だろう! これで彼女からの点数も大幅アップに違いない、即座に「パイン! 」と音が鳴り返信が届く。
『ええ! 修三君もポロやっているんだ! 始めは慣れないけど慣れて自分でゴール決められると嬉しいよね! 今度一緒にやらない? 』
予想外の答えが返ってきた。ゴール決めるって………………ポロってスポーツなの? ? ?
検索してみるとポロというのは馬に跨り長い棒で球をゴールに撃つといったスポーツらしい。
「馬なんて持ってないよ! ! 」
思わず立ち上がる。身から出たサビとはこのことだろうがとんでもない嘘をついてしまった………………どうすればいいのだろうか? 馬を買うか? そして猛特訓すれば嘘ということにはならないけどそもそも馬一頭飼うのに幾ら必要なのか………………そして調べると1人4頭必要とあるが………………絶対無理だ! ! !
『ごめん、実は趣味がポロだっていうのは嘘なんだ』
どうにもならなそうなので正直に告白することにした。変に見栄を張ったせいで終わってしまった………………。
スマホをぶん投げたくなったそのとき、再び「パイン! 」と音が鳴る。
どうしよう、見るのが怖い。
勇気を出して覗いてみると以下のようなメッセージだった。
『あははよかった。実は私もポロやっているっていうのは嘘なの、ごめんね。』
「うおおおおおおおおおおお! ! ! ! やったああああああああああ! ! ! ! 」
冷静になると別に何もやっていないわけだが彼女が気分を害していないということが嬉しくて思わず舞い上がってしまう。すると再びスマホが鳴いた。
『それで本当は修三君何してるの? 』
この点に拾ったチャンス、捨てるわけにはいかない! 今回は正直に答えるとしよう。オレは正直に
『最近は家事と読書かな』
と素直に答えた。まあ無難と言えば無難だろう。するとメッセージが届く。
『家事やってるんだ! すごいね。私はお手伝いさんがいるからってやらせてもらえなくて……
読書好きなんだ! 何読んでるの? 』
意外と家事やる男子高得点!?いや、お手伝いさんがいるってそのほうが凄いよ! ! ! 改めて身分の差を知る。そして読書の方にも興味を持ってくれた。オレは先ほど正直に言うことを誓ったので正直になろう。
そう考えてメッセージを書いた。
『いやいやお手伝いさんがいるほうが凄いよ!
最近は西野圭吾さんの本を読んでいるよ。』
………………学生時代に西野さんの本は図書室にあるだけ読み漁ったし物理学者シリーズの新作も呼んだのだから嘘は言っていない。最近人気俳優主演で実写化された映画もありチョイスは間違っていないだろう!
するとスマホが鳴った。
『西野さんか~最近人気だよね、今度見てみるよ! ありがとう! ! 』
やはりオレの判断に間違いはなかった! オレも今の本を読み終わったら図書館に行き読み直すとしよう! ! !
そう決めてスマホを置こうとしてふと気付いた。
1つの話題が終わった今こそ攻め時だ! ! ! すかさずオレは文章を打ち込み送信する。
『是非! ところで櫻井さんは最近何してるの? 』
これぞ自然な流れというやつだ! この流れなら櫻井さんも答えざるをえまい! !
しかしそれからスマホの前に待機して待つこと数時間、既読はつくものの彼女からの返信はなかった。
答え辛い話題を振ってしまったか………………とはいえ残念だけど続いた方だ悔いはない! それにまだたった数時間だ! 忙しくなっただけということも考えられる。
気が付くと腹が「グぅ~」となっている、昼飯も食べずに既に午後の3時なのだから当然と言えば当然だろう。
ちょっとはやいけど夕飯の支度でもするか!
オレは台所に移動して先ほど保存したレシピを開いた後、購入した鶏のひき肉と家にあったねぎとショウガを用意する。ネギとショウガを刻んだあとボウルにひき肉、ショウガにネギを入れてそこに味噌、醤油、みりんといった調味料も加える。
次にビニール手袋を装着して粘りが出るまで一気にこねる!
グニャッと柔らかい感触が掌に広がる。それと同時にオレの大学時代の記憶がよみがえった。
ある日、赤木と女の子の身体は男よりも柔らかいという話題になった。何と赤木は羨ましいことに中学時代に彼女と付き合っていたらしく自信をもって柔らかいと断言していた。女の子と手をつなぐ経験すら皆無なオレはその話を聞いてモテないオレに何か手はないのか、何と似ている感触なのかを尋ねた。すると赤木は冗談交じりで「豚肉」と答えた。
この柔らかい感触………………つまり、オレは今櫻井さんの手を握っている! ? 知らなかった………………女の子の手がこんなに柔らかいだなんて! ! ! !
オレのこねるスピードが格段に早くなった。そしてひたすらこねること約10分
………………何をやっているんだオレは?
オレはものすごい虚無感に襲われていた。赤木がしていたのは「豚肉」のことでこれは櫻井さんにも更には豚にも鶏にも失礼な気がする。
今回張り切ってこねたお陰か松風焼は両親から絶賛されたのだがそれは先の話だ。
さて、オレが虚無感に襲われながらもアルミホイルの準備を始めたそのとき、オレのスマホが「パイン! 」と鳴いた。慌ててみると櫻井さんからの返信だった!
『私は……お婿さん探しかな』
そうか………………彼女も大変なんだな。いやしかし是非立候補したい! そのために彼女にふさわしい男にならなくては! そう固く心に誓った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます