第2話「白昼のロマンス」

「久しぶりだね、修三くん」


「櫻井……………………さん」


 そこに立っていたのは顔を見れば間違いない、中学校のときに同級生だった櫻井さんだ! ! ! 学校ではいじめられていた以外目立っていないオレのことを覚えてくれているのは驚いた。まさか彼女から声をかけてくれるなんて! しかしどうして彼女はここにいるのだろう?


「…………あの、いらっしゃいませ」


 店員がこの状況を見て申し訳なさそうに切り出した。


「ああ、すみません! 」


 後ろを見ると数人の列になっていた。オレは慌てて籠を差し出す。


「ありがとうございました」


 店員の元気な声とともにオレは彼女の元へ駆け出す。彼女は店員を見て向かうのも悪いと判断したのだろう、籠の側に戻りこちらをみながら袋に詰めながら待っていた。


「櫻井さん、どうしたのこんな平日の昼間に」


 いきなり気になっていたことを尋ねる。こういう場合はムードを大切にするべきだっただろうか? と発言した後に思いつめ後悔する。


「私は、お買い物中。今日はお手伝いさんがいないから私が買い物に出かけたんだ。それより修三君は……………………」


 しまった、彼女はムードに関しては気にしていないようだけどこの質問を聞かれたら次はオレが聞かれるに決まってるじゃないか! 何かニートの格好良い言い方は………………自宅警備員か? いやいっそ専業主子のほうが家事やっている感が出る分マシだろうか! ? いっそ何か良い職業をでっちあげなければ! 有給ということにしよう! ! 何か手ごろな職業は………………


 見栄を張ろうとするも実は今すぐ頭を抱えて逃げたくなるオレを気にせず彼女は続ける。


「修三君は………………パインやってる? 」


「………………え? 」


 予想外の質問だった。それだから間の抜けた返答をしてしまう。てっきり話の流れからオレの職業かと思いきや今巷で流行りのメッセージアプリパインのことだったとは………………!


「一応、やってるよ」


「良かった! じゃあ連絡先交換しようよ! ! ………………ほら、こうやってこのスーパーで同級生に会えたのも何かの縁だからさ! ! ! 」


 彼女が慌てるようにスマホを取り出した。こちらからすれば願っていもない申し出だ! 迷わずスマホを取り出す。


「じゃあ、私がコードを………………あれ、これどうやるんだっけ? 」


 彼女が困り果てたというように首をかしげる。


「それならオレがコードを出すよ」


 そう言ってかつての記憶を頼りに画面をタッチしてコードを表示した。


「ちょっと待っててね」


 今度は彼女はコードリーダーを読むのに四苦八苦しているようだ。機械に弱いのだろうか?


「コードリーダーのアプリは入ってる? 」


「あ、まだ入れてなかったよ! 」


 今度は彼女がコードリーダーのアプリを探すのに一苦労………………とならないようにアプリの名前を伝えると検索してみつかったようだ、しばらくすると彼女がスマホをオレのスマホに重ねて読み込めたようだ。


「これが修三君の………………フフッ! 」


 オレのパインのアカウントが表示されたかと思ったら彼女が突然笑い出した。一体どうしたというのだろう?


 不審に思い自分の自ホーム画面を開いてみると何とそこにはオレが初めて書いた人体の構成がめちゃめちゃな自画像がトップ画面にでかでかと貼られていた。


 しまった………………大学の時に付き合いで描いた絵を変えるのを忘れていた。


 自らの失態を嘆く。初めて描いた絵があまりにも衝撃的だったようで大学の友人からも「肩どこ行ったこれ! 」などと笑われていたのだ! !


 咄嗟に「変な絵でごめんね! 」と謝罪すると


「う、ううん違うよ! とても素敵な絵だと思うよ! 」


 彼女が首を振ってこたえた。フォローまでしてくれるなんてなんて優しい子なのだろうか。


「あ! もうこんな時間、私もう行くね! ! 」


 そういって彼女は何かを見て慌てて荷物を詰め始めた。彼女の視線をたどるとそこには黒服の高齢の運転手らしき人が心配そうにこちらをみていた。


「ああ、あんまり待たせると誘拐とか起きたんじゃないかってみんな心配しちゃうからね! じゃあ、気をつけて帰ってね! 」


「あはは、大丈夫だよ。ありがとう。修三君も気を付けて帰ってね! ! 」


 彼女が去り際こちらに手を振ってくれるので振り返す。お金持ちも大変なんだな………………。


 一呼吸おいてさて帰るかとしたとき


「まあ、若いっていいねえ」


 そんな囁き声が耳に入った。何かあったのかと振り返るとそこには数人いた買い物客と店員がこちらをみて何やらニヤニヤとしていた。


「あの女の人は誰だい? 」


「あそこの向かいの大きな家の櫻井さんの娘さんだよ! 」


「まあ、あの家の! ? じゃああの男のほうもお金持ちの子なんかい? 毎日スーパーで見て働いてないようだけど」


「あっちは坂田さんとこの子だよ、共働きだからお金はあるだろうねえ」


 平日の昼間に若い男女が談笑して手を振って別れるというのは田舎では珍しい光景なのだろう。皆興味津々のようだった。流石に居心地が悪いのでそそくさと立ち去る。


 一週間ほど午後に買い物へ向かうことにしよう。


 早足で駐輪場まで行き愛車に乗り帰路につきながらそんなことを考えた。


 帰路についている最中、「パイン! 」とスマホがなった。まさか彼女から返信が! ? いやそんなまさか………………とは思いつつもキョロキョロと辺りを見回し安全確認をする。平日の昼間で人は少ないが狭い1本道のため人や自転車は問題ないが車とすれ違ったりしたら大変だ。



 車は見当たらなかったのでできるだけ左端によりつつスマホをポケットから取り出し起動する。すると櫻井さんからこのようなメッセージが送られていた。


『修三くん、今日はお話ししてくれてありがとうね。楽しかったよ! 大学院卒業してからこの町に帰ってきたんだけど知り合いは誰もいなくて心細かったんだ! また今度会おうね。』


 大学院か………………オレがこうやって生活している間に彼女は勉強をしていたのか。


 とここは落胆するところではない! むしろその先だ! !


 帰ってきた……帰ってきた…………帰ってきた! ! ! 脳内にこの5文字が反響する。つまり彼女はこの町に一時的ではなくこれからもずっといるということだ! ! !


 これはチャンスなのではないか! ?


 ここで彼女と付き合うことができればオレの人生は大きく変わることだろう! ! ! 既に終わりを迎えかけていたこの人生が一気に変わることだろう! ! !


 実はオレは昔彼女に勝手に失恋したことがある。お金持ちなことを抜いても顔が美人で勉強も運動もできる文武両道でおまけに今日のことからもわかるように性格が良い! ! ! となっては男子は黙っていないだろう。事実あの子もこの子も隣の田中も櫻井さんに夢中だった。それ故に櫻井さんの男版である人物やまさかの彼女持ち何かもライバルであったため平凡なオレでは無理だと諦めたのである。



 しかし、今彼らはいない! ! この町にいるのは役場にいる中村のみ! ! ! しかし中村は今は仕事が忙しい部署らしくこれはチャンスだ! 頼むから役場内で恋愛をしていて欲しいと切に願う。


 ここが気合の入れどころだ! とオレはウキウキ気分で帰宅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る