元勇者なのに額に拳銃を当てている
改造したエアコキリボルバーを【
このスキルは、どの建物のどの部屋にあるかなど、大まかな位置座標を把握できているものであれば、どんなものでも手の中にワープさせることができるというものだ。言うなれば制限付き四次元ポケット。
そして……さらにレベル2スキル【
ただちょっと改造を施しただけのエアガンは、一瞬にして、本物の銃へとその性質を変えた。
人を殺せるエアガンの
苦痛と苦渋に歪む、鹿苑の美貌。
それを至近距離で見下す俺の顔は、きっと、この世で一番醜い。
「これはただのエアガンなんだけどさ……まぁ、さっきのお返しってことで。ただのエアガンなんだけど、もし手が滑って撃っちゃったら、きっと痛いよ? ただのエアガン、なんだけどねぇ」
「今……スキルを使いましたね……!」
「アハハハ、だからよく分からないんだって。証拠でもあんの? 俺よく分からないんだけど、たぶんあの鉄クズを使えば、スキルを使ったって証拠をゲットできたのかなぁ?」
「くっ…………!」
やっぱりな。
レベル2スキル【
(『
……どうやら、アレは『芥ノ調』というらしい。俺が言うのも何だが、えらい厨二センスだな。コイツがそういうタイプだったとは少し意外だが。
もう少し深くこの武器のことを知りたい。
レベル2スキル【
『芥ノ調』に関するコイツの記憶データを探ってみた結果……どうやらこれは、銃や剣の形に変形できる、能力波探知デバイスだということが分かった。
俺のようにチートスキルを使える人間がスキルを発動した際、発動者の体からは、その能力の強さに応じて、『能力波』というものが放出される。この芥ノ調は、その能力波を検知できるアンテナの役割を持っているらしい。
銃の形に変形させればエネルギー弾を放つことができるが、剣の形に変形させても切れ味はない。あくまで武器としての力は威嚇用であり、殺傷能力は低いようだ。エネルギー弾には、俺の持つ大量のスキルのような異世界の力を消し去る力があるが、あくまでも簡易的なものであり、弱い能力しか消せないらしい。
……結果論だが、踏み潰すまでもなかったな。その弾では俺のスキルは消せないだろうし、戦闘訓練を積んでいるとはいえこんな女1人、スキルなんか使わなくても対処できるし。
……ついでに、コイツの出自や目的に関する記憶も読んでおこう。
一度見たものを完全に記憶できるレベル1スキル【
今、記憶を脳内にインプットしたのは、まだ『本を買った』状態だ。その本を実際に読むという処理の段階を経なければ、自分の知識として扱うことは出来ない。
鹿苑が、拳銃と俺を交互にギョロギョロと睨み、ぎりりという音がこちらにも聞こえてくるほど強く歯噛みする。
そして、俺をまっすぐ睨み上げて、射殺すような低い声で吠えた。
「調子に乗らないで下さい。私を殺しても、政府は徹底的にあなたを追い詰める」
「政府に狙われるようなことはしてないんだけど……まぁいいや。聞きたいことは聞けたし、この話はもう終わりかな」
「何を……!?」
髪を掴んでいた手を離してやると同時に、レベル1スキル【
「…………」
完全に鹿苑の体から力が抜けたのを確認し、またもう一度、【
俺がコイツの前でチートスキルを使用した場面の記憶を全て書き換えて、と。
あと、ちょっと蹴っ飛ばした時にできたキズとかをレベル1の回復スキル【
「あぁ、後始末はこれもか……」
鉄クズ、もとい芥ノ調の成れの果てを、レベル1スキル【
とりあえず、今のでこの場の後始末は全て完了だ。
あとは……コイツをここで寝かしとくわけにはいかないし、非常に不本意だが、保健室にでも運んでやらないとな。
俺はいわゆるお姫様抱っこの形で鹿苑を担ぎ上げると、何の痕跡もなく綺麗になったエレベーターホールから出るため、廊下とホールとを隔てている防火扉を【
誰かに見られたら面倒だけど、それもそれでいいかもしれない。気絶した美少女を保健室まで担いで運ぶ優しい男子として、評価が上がるかも。
……なんてことは、特になく。
今の時間はどこも部活動が盛んで、校舎内の人通りも少なく、生徒にも先生にも一度も遭遇しないまま保健室の前まで辿り着いてしまった。
まぁ、仕方がない。お姫様抱っこで両手が塞がっているので、レベル1スキル【
「はーい」と返事が返ってきたので、しんどそうな声色で「すいません、開けてもらえませんか」と呼びかける。
ぱたぱた、と保健室の先生が小走りで近付いてくる音が聞こえ、すぐにガラガラと引き戸が開く。気絶した鹿苑と、それをお姫様抱っこする俺の姿を見た途端、先生は「まっ」と小さく声をあげた。
「廊下で話してたんですけど、急にしんどそうにして、倒れちゃって……」
「大変。すぐにベッドに寝かせなきゃ」
この保健室の先生は、石津という。
常に地面スレスレの大きすぎる白衣を着た、小柄な女性である。
身長こそ低いが、纏っている雰囲気と柔らかな物腰がとても大人っぽく妖艶で、何よりもウチの女子生徒たちにまだまだ負けていない若々しさから、男子の間でけっこう下衆な話のタネになることが多いようだ。
そんな先生に背中を支えてもらいながら、実際は全然余裕なのだが大変そうなフリをしつつ、鹿苑の体を保健室奥のベッドに運び込む。
「ありがとう。あとの処置はこっちでやっておくわ」
「お願いします」
「それにしても……」
体温計などを運びながら、ふと俺の方を向いた石津先生が、くすっと苦笑いする。
その表情には、たしかに俺もちょっとトキメいてしまった。
「倒れた生徒を運んできてくれる子はこれまでも何人かいたけれど。女の子をお姫様抱っこしてきたのは、あなたが初めてよ?」
「……ははは。焦ってたもんで」
実際は一ミリも焦ってないし、何なら俺がコイツを眠らせたわけだが。
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