二
会社が終われば、色を変えた街へ戻る。
帰りは内回りそのままだけど、すぐに家に戻ることはしないで、終電までどこかで時間を潰す。終電は乗客が少ないというのもあるのだけれど、真の目的は別にある。
日付が変わって一時間が経とうと言う終電で、毎日決まったドアの前に陣取り外を眺める。
すると、ほんの数秒。
わずか数秒だけ外回りの電車と内回りの電車がすれ違う。
その中のドアの一つに、私の最も大切なものが見える。
向こう側に住む恋人の微笑み。
それが四半日の時間をどうにか潰す理由。それが恋に関する飛び火が苦手な理由。
私が常世から出らず直接会えないから、会ってはいけないから、こうしてお互いの顔を見るだけの、刹那のデートを重ねている。
そうして、彼のことを近くに感じながら一日を終える。
ベッドに横たわると、自分の体温が返ってきて、彼がすぐそばにいるみたいだ。
目を閉じ、彼の笑顔を思い出す。それだけで私の今日一日を肯定されて、明日もどうにか色々なことに耐えようと思える。
彼と私とでは住む世界が違ってしまった。
直接会えなくても、少しだけ力をくれる。ただそれだけでよかったんだ。
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