第3話
朝。鳥の鳴き声で目を覚ました私はある事に悩んでいた。足首の痛みが酷く左足を地面につける事が出来ない。歩けないのだ。どうにかしないと。
私があれこれ考えを巡らせていると、部屋の扉からノック音が聞こえた。「どうぞ」と返事をする。フォールズさんだった。
「おはようございます、プレンダーガストさん。足の調子は?」
「思っていたより痛くて…歩くのは難しいかと」
「なら、一階に車椅子があるんです。そこまで運びますよ」
「助かります」
フォールズさんは私を持ち上げると、長い廊下を歩き、螺旋階段を降りて車椅子に降ろす。朝食を済ませる為私は車椅子を動かそうとする。が、車椅子を使うのは初めてなので思うように操作出来ず壁にぶつかってしまう。
「…上手くいかないものですね」
「その調子だと家が壊れるかもしれません。俺が押しますよ」
彼は笑いながら冗談を言って車椅子のグリップを握り、食卓テーブルまで運んでくれた。片足を怪我しただけでここまで人に頼る事になるとは、と無力さを実感しながら食事する。ダイニングにはウィリアムモリスの鮮やかな青色の壁紙が貼られ、ヴィクトリア朝時代に作られたと思われる重厚な家具が置かれていた。椅子は普通の物が二つと子供用の椅子が一つあった。自分はまだ車椅子なので使う事は無いだろう。
私の向かい側にはフォールズさんが座ったが、二人きりで話す話題も見つからず暫く淡々とフル・ブレックファストを食べるだけ。無言になるのは気まずいので、彼に話しかける事にした。
「そこにある子供用の椅子はご家族の物ですか?」
「はい。けど、置いてあるだけでもう使う事は無いんです」
「こんなに広いお家ですもの。家族が多いんでしょうから」
「前は三人で暮らしていました。この家は木造だからか人気が無くて…建てられたのは18世紀中頃らしいですが」
「そういえば、奥様はどちらに?」
「…ええと」
ブルネットの髪をぐしゃりと搔き上げ、フォールズさんは言いづらそうにどこか遠くを見てから私に視線を戻す。
「事故で亡くなったんです。海難事故で。妊婦だったんですが、タイタニック号の三等席に乗っていて、それで…」
「あ…失礼しました、変な事を聞いてしまって」
「いえ、あれからもう二ヶ月経ちますから。…彼女は、凄く綺麗な人だった。でも事故で死ぬなんて」
「私も親戚を亡くしましたの。二等席だったのに」
「タイタニック号の海難事故は誰も予想出来なかった。せめて、遺体だけでも見つかれば良いんですが」
「えぇ、本当に」
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