第2話

親切なお医者様、フォールズさんのお陰で私は馬車に乗り、『家』が見えてくる頃には空がすっかり暗くなっていた。彼の住家はジョージアンハウスの真っ白な可愛らしい家で、暗闇の中でもくっきりと見えた。

彼の助けを借りて階段を登り、一番奥の二階の部屋まで行き、やっとの思いでベッドに腰掛けた。部屋にはクローゼット、姿見、ドレッサーなどもあって、一目で女性の部屋だとわかった。


「本当に迷惑をおかけして…申し訳御座いません」


フォールズさんが医療器具や包帯を持って私の前に座る。自分が治療されている様を見るのは苦手なので、私は足から視線を逸らしていた。


「いえ。どうしてあんな所に?」


「婚約相手に会う為にウィンダミアへ来たのですけど、疲れてしまって。少し散歩していたんです。一週間後には帰る予定なので、ホテルに戻らないと」


この状況で隠し通すのもどうかと思うので、全て本当の事を話す。フォールズさんは一言「そうですね」と返事して、余った包帯を片付け始めた。


「…終わりました。一応やれる事はやってみましたが、後は時間の問題だ」


治療してくれた彼に改めてお礼を言おうと、私は帽子を取る。

何となく、表情を見せずにお礼を言うのは変な感じがしたからだ。


「シャーロット・プレンダーガストです。ご親切に助けて下さって感謝致します」


するとフォールズさんは数秒、ほんのちょっとだけ動きを止めて何か呟く。綺麗なヘーゼル色の瞳を逸らす。彼は端正な顔立ちをしていて、じっと見られると気恥ずかしくなるので丁度良かった。聞き取る事は出来なかったけれど、重要じゃなさそうなので気にしない事にする。

この辺りでは金髪が珍しいとかで、驚いていたのかもしれない。

私がそう考えていた時にはフォールズさんは医療器具を抱えて、部屋を出て行こうとしていたので慌てて声をかけた。


「あの、馬車をお借りしても?この足で歩いて帰るのは難しいですから」


彼はその言葉を聞くなり首を横に振った。


「馬車は調子が悪いんです。明日直すので、今日は泊まって下さい。それにこの辺りには狼がいるので夜は危険ですよ」


「そうなのですか?…でしたら御言葉に甘えて」


「えぇ。妻の部屋ですが、今は居ないので好きに使って下さい。クローゼットの中に服が入ってます」


「どうもありがとうございます。おやすみなさい」


こうして私はフォールズさんの家に厄介になった。

父は『近頃の若者は』と口癖のように言うけれど、こんなに良い人もいるのだ。ロンドンへ帰ったら、私も彼を見習って人助けしようと思う。

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