Cage
牛乳ラブ
第1話
一九一二年、六月中旬の午後七時。ウィンダミア郊外の平坦な道を馬車で走っていると、前方に水色の点が見えてきた。
ゴミかガラクタだろうと考えている間にどんどん水色は近くなって、全体像を把握する事が出来た。
第一に物では無く人だった。もっと言えば女性。歳は自分より三つほど下…二十二歳か二十三歳くらい。帽子もドレスもバッグも全て水色。レースの手袋を付けてヒールの高いパンプスを履いている。
こんな所にうつ伏せで倒れている人は労働者ーーーーーー下流階級の人間だと思ったが、予想は大外れの様だ。
どちらにしても放っておくのは不味いだろう。
ゆっくり彼女に近づいてしゃがむと、口元に手を翳した。息をしているが不規則だ。素早くコルセットを掴み紐を解く。
解き終わってすぐに、ぴくりと女性の身体が動いた。
「…大丈夫ですか?」
声をかける。僅かだが首を縦に動かしているので安堵し、質問を続けた。
「ジェラルド・フォールズ、医師です。起き上がれますか?」
頷く女性の背中に腕を入れ、上体を起こす。次に立たせようとしたのだが、彼女が左足の足首を摩っていたのでまずはそっちを診る事にした。白い肌が腫れて紫色に変化している。
「…捻挫してるな。この具合だとここじゃ治療出来ないので家へ行きましょう。辛いでしょうけど、馬車に乗って頂けますか」
いつもは荷物が乗っている荷台に女性を座らせ、再び馬車を走らせる。自分以外の人間がこの馬車に乗るのは二ヶ月ぶりで、何だか不思議な感覚だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます