宇宙を泳ぐ船―Cosmo Crawler
実際のところ、
抗老化治療は複数の技術が高度に複合されたひとつのパッケージだった。定期的に処方される薬剤がテロメアの修復を促し、細胞分裂の上限を取り払った。血液中に注入されたナノマシンが免疫機能を補助すると同時に、血管の損傷を補修した。マッサージとストレッチをはじめとした運動プログラムが血行を促進し、細胞の劣化を抑制した。瞑想だってバカにはできなかった。思考を制御し下垂体分泌物のバランスを整え、内部的な抗老化を実現した。
3ヶ月もすると、筋肉は盛り上がり、内臓がごりゅごりゅと音を立てるように動き出し、肌も髪もぷるんとハリとツヤが出た。思考も澄み渡り、宇宙の真理すら掌握できそうだった。
圧倒的な全能感。俺は超人の領域に足を踏み入れたんだと思ったね。金持ちのやつらはずっと前からこんな甘露を享受していたのかって憎たらしく思ったさ。だが今となっちゃあ、俺の目の前には永遠とも言える時間が続いてるんだ。そう思えば腹も立たねぇ。余裕さえあれば、人はいくらでも寛容になれるのさ。
抗老化治療で若返った俺は、訓練のために呼び出された。何の訓練かって?寝ぼけてんなよ、俺は宇宙飛行士として雇われたんだぜ?
俺はプロキシマなんちゃらとかいう星へ向かうチームに割り振られていた。メールに従ってミーティング・ルームに入ると、すでに3人の男女が座っていた。やさ男のジョン・ドゥと、筋肉女のジェーン・スミス、若ハゲのリチャード・ロゥ。
「全員揃ったようだな」と教官のリチャードが言った。そして部屋の照明が暗くなり、壁にかけられた馬鹿デカいディスプレイにSF映画のメイキング・ドキュメンタリーみてぇな映像が流れる。それを見ながらリチャードが説明を始めた。
「コスモ・クロウラー・ワン、そいつが君たち3人が乗り込む宇宙船の名であり、チーム名だ。」
画面の中ではロケットの打ち上げ後、ブースターから切り離された宇宙船が唐突に6本の船外アームを展開し、
理論上、燃料を噴出し続ければ宇宙船は亜光速まで加速できる。だが船に積む燃料は限られている。積めば積むだけ重くなるんだ。
じゃあどうするか?その答えは単純明快だった。現地調達さ。平たく言えば宇宙船の推進てのは船体後方への質量の噴出だ。だったら質量を宇宙で調達すればいい。そこにはデブリや小天体が
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