彼方からのメッセージ #02

 三十年前、あの忌まわしい戦争が起きたのです。私たち硅素生命カリプソ=クオルツを真っ二つに分けて争った、Calypso Warキノコ・タケノコ戦争が――


 きっかけはほんの些細なことでした。食べる鉱石の好み。紅水晶ローズ・クォーツ派か、紫水晶アメジスト派か、たったそれだけ。始めは悪ふざけの延長みたいなもの、どちらが好きか、二つの陣営で罵り合っていただけなんです。そこから生まれた小さな憎しみの種火。それがいつの間にか、大きな二つの火柱になって。


 最初に石を投げたのは紅水晶派。先に手を出したのは紫水晶派。パニック状態で収拾がつかなくなり、ついに赤水晶派の一個体が近くの仲間を取り込んで巨大化を始めました。私たちの体は小さな石核の集合体だから、そんな風に融合できるんです。紫水晶派も黙ってはいられません。融合、巨大化。そうしてこの星カラバシュ=グレナダの地表に、巨大な赤いキノコと巨大な青いタケノコが、威風堂々と対峙しました。


 それは熾烈な戦いでした。青タケノコがドリルのような触手を生やし、赤キノコに襲い掛かります。赤キノコはチェーンソーのように円板状のカッターをカサのフチに展開、その巨体からは考えられない素早い挙動でドリルの弾幕を掻い潜ったかと思うと、青椒肉絲の具のように細切りに切り揃えられた青タケノコの触手がバラバラと落ちてきました。赤キノコは瞬く間に間合いを詰め青タケノコに肉薄、しかし直前で急停止したかと思えば、大地から突きだした無数の竹槍が赤キノコのカサを抉り取りました。


 次々に繰り出される技と兵器。鋭い攻撃が互いを削り取り、地面はキラキラと輝く赤と青の破片で染まり……。そうして一年(11日)が経過しました。地面に散った石核コアは、もはや石核コアとして修復できない程に損傷していました。私たち硅素生命の個体数は、激しい戦闘の果てに三割程度になっていたのです。


 私たちは泣きながら、同胞の亡骸を貪りました。もう二度とこんな過ちは犯すまいと、私たちは自分たちの姿を作り替えました。思考を共有し、すべての個体がみんな同じようなことを考え、同じような行動をするようにしました。私たちが急速に発展するために、個性が重要な働きをしたことはわかっています。だけど、そんな個性が破滅を産んだんです。


 個性なんていらない、皆同じなら争うこともない。そうやって私たちはやり直しました。


 そして再び平和が訪れた頃……。宇宙そらから、あなたたちが現れたんです。

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