大宙原―Blue Ocean
始めの頃は高騰していた
だが俺は焦っていた。もはや60を数えようかという年齢だ。いくら若返れるつっても死んじまっちゃあ手遅れだ。俺のような底辺労働者が治療を受けられるレベルまで値下がりするまで、俺は生きていられるのか?そう、俺には時間がなかったんだ。
そんな頃、ふたつめの問題が持ち上がった。抗老化治療に対する反対運動が起きたんだ。やつらの焦点は『人口増加問題』だった。
抗老化治療を受けた人々はどんどん若返った。エネルギーに満ち満ちた肉体が辿り着くのは20代前半の体。高齢出産なんて言葉は消え失せ、女性はいつまでも妊娠適齢期だ。そして老化で死ぬ人間は誰もいなくなる。
つまり人口は際限なく増え続けるってこった。
「このまま人口が増え続けては、地球は人類を支え切れなくなる!不老不死など、人のあるべき姿ではないのだ!」
「人が死んだときだけ子供を作って良いことにしよう!」
「敬虔なキリスト教徒の俺に避妊しろってのか?」
息苦しい世の中だったぜ。出産規制と倫理をめぐる争い。どいつもこいつも好き勝手にものを言っていた。老いから開放されたと思ったら、別の新しいしがらみに捕まったわけだ。まぁ、世の中ってのはそんなもんかもしれねぇな。
そんな状況を打破したのも、やっぱりシリコンバレーだった。
「こんにちは、世界よ!こんにちは、人類よ!いま我々は一体、何を争っているのだろう?何と闘っているのだろう?我々は自由なはずだ!老いという楔からも解き放たれた。だというのに何故、自らを再び不自由の檻に閉じこめようとするのか!?」
これぞアメリカといわんばかりの、劇場型の暑苦しい演説。聴衆に灯がともり、チリチリと弱い熱が場を包んだ。
「産めよ殖えよ地に満ちよ。神はそうおっしゃった。地に満ち、その先は?皆、それを心配しているのだ。だが我々は、その先の用意を始めている!」
そう言って指さしたのは、突き抜けるような青空、さらにその先の、吸い込むような黒い宙。
「そう、宇宙だ!火星、そして地球から最も近い地球型惑星。このふたつの惑星への有人宇宙探査を決行する!このまま人が増え続ければ、地球は人間で溢れるかもしれない。だがそれで争う必要は無い。地球を
まぁ新手の宗教家みてぇな演出さ。だがそんな陳腐な演説に聴衆は熱狂した。拳を突き上げ、咆える者もいた。それほどまでに世界は行き詰っていたんだ。暗闇の中で出口を求め、わずかな酸素を求めて喘いでいたんだ。
「来たれ英傑よ!宇宙探査ベンチャー『セカンド・アース・エクスプローラー』社は勇敢なる飛行士を募集する!報酬は年俸50万ドルと、恒久的な抗老化治療だ!」
で、俺はその
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