特権階級―Privilege Minority

 不老不死の実現は、本当にという間だった。世界中で抗老化治療アクティブ・アンチエイジングの提供を生業とするベンチャー企業が立ち上げられた。本家アメリカのカ○コ社を筆頭に、インドのアムリタ社、イギリスのエリクサー社、中国の蓬莱長命社、日本のユース・エターナル社…。


 ここでひとつめの問題が起きる。


 そう、価格さ。


 我が日本はまだマシな方だったが、それでも月額250万円って、目玉が飛び出るほどの値がついた。抗老化治療は継続的な処置が欠かせねぇ。技術も成熟しきっていねぇもんだから、恩恵を受けられる消費者の数が限られてたんだ。そんな時に起きるのが商品のプレミア化。たとえ原価がドリップコーヒー1杯分であっても、希少価値さえあれば自動車なみの値がつくのさ。かくして高額な費用を支払い続けることができ、かつ診療所に紹介してもらえるコネを持つ、限られた会員のみがサービスを享受する差別社会が出来上がった。


 当然のように、世界各所で不満が爆発したね。 


 そりゃそうだ。その当時、貧富の差は拡大するばかりで、富裕層はただでさえ激しい嫉妬の目を向けられていた。それでも死は平等に訪れる、そいつが人々の心の支えになっていた。少なくとも無意識のレベルではそう思われていたはずだ。死と老いだけが真に平等だったんだ。それがどうだ?富裕層はとうとう、不老不死を手に入れようってんだ。まさに特権階級だ。当時の地球を埋め尽くした感情はやはり嫉妬だろう。庶民の歯軋りが世界中に響き渡った。三日三晩、下手クソの弾くヴァイオリンみたいな呻きが地球の大気を震わせ、赤ん坊の泣き声がコーラスを担当した。


 しかしその問題も次第に解決されていく。新規技術なんてのは後発の奴らに模倣さパクられるものと相場が決まってるんだ。徐々に価格は下がり、会社役員くらいなら手が出せる額に落ち着いた。それでも俺みたいなワーキング・プアには縁の無い話だったがな。


 あとはまぁ、些末なニュースがいくつかあったくらいだ。イタリアではマフィアが薬を買い占め、中国では薬を飲んだ人間が爆発した。よくあることさ、そうだろ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る