キノコ・タケノコ戦争 あるいは3017年のスペース・インベーダー

ヱビス琥珀

抗老化治療―Active Anti-Aging


……よう、誰かいるのか?


 いや、そんなはずはねぇか。この宇宙船の中には俺しか乗っていない。……載せられていない、と言った方が正しいか。


 まぁいいや。いるにせよいないにせよ、どうせ独り言みたいなもんだ。俺にゃ何も見えないし、何も聞こえねぇからな。喋ることしかできねぇんだ。


 俺の名はイソノ・カッツォ、ジャパン出身のナイスガイ……のはずだったんだが。自己紹介で気取って発音したカッツォ名前が、まさかイタリア語でcazzoち○こだなんて想像すらできなかったぜ……。カッツォちくしょう


 さて、どこから話したもんか。俺が生きている千年あまりの間に、じつに色々なことが起きたが……。ことの発端は、やはり医学の究極的な進歩だろう。


 2037年、人類は不老不死を実現したんだ。


 はじまりは2010年代に遡る。その頃シリコンバレーが幾人かの天才科学者マッドサイエンティストの研究に目をつけた。シリコンバレーってのはアレだ、アメリカの、カリフォルニアとかあの辺のアレ。半導体絡みの研究所や企業が集まったその地域は、情報産業でひと山当てた億万長者が住むセレブリティ・シティになったわけだ。


 その科学者どもの研究ってのが抗老化治療だった。老化を病とみなし、積極的に処置を施していく若返り治療。富も名声も得た権力者が次に望むのは不老不死ってな。人間の欲なんざ、中世の頃からなんにも変わっちゃいねぇのさ。だが今回の企みが中世の頃と違うのは、ヤツらは本気で不老不死を目指したってことだ。


 研究者の1人はこんなことを言ってたな。


「我々の研究の目的は、人々が長く健康的でいられることです。体の不調の多くは老化に起因しますが、適切な医学的処置を施せば心身は20代まで若返り、その寿命は千年まで伸ばすことが可能です。我々にとって不老不死とは、長期の健康を目指した医療行為の副産物に過ぎません。偶々それが究極的なゴールと一致しただけで。」


 天才達はアイデアを溜め込んでいたが、それを実現するための金も人手も足りちゃあいなかった。そこに後ろ盾がつき、巨大な資本が流れ込めば研究は一気に加速する。こういった研究開発ってのは大抵そういうもんだ。水を得た魚……なんてカワイイもんじゃない。それは河童を太平洋まで押し流すような激流だった。倫理研究や法整備なんかも押し流された。今頃モルディブ沖あたりを漂流しているかもしれねぇな。それくらいに激しい流れだったんだ。


 そうして人々の想像すらも置き去りにするほどのスピードで、不老不死は現実のものになったんだ。


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