第65回:テーマ『鍵』

タイトル:ちりん、と、ころん。


あれは大事なところに置いてある。目には留まりやすく、だけどおそらく二度と使わない、鍵のことだ。

社会人になったいまでも捨てずにとってある、いや、手離せないのだ。

片割れの鍵穴がついた小箱は、きっとあの人が持っている。まだ持っているかしら、なんて思う。けど、確認はもうできない。


夜、ふと、私は日が経ち少し色が鈍くなったその鍵を手に取る。鈴をつけているその鍵が鳴る。軽いその金属らを何度か捨てようと思い、その都度躊躇する。

二度と開かない。ここに鍵があれば二度と開かない。私たちの思い出はずっと閉じ込めていたいのだ。

私はもう一度鍵の鈴を鳴らす。


どこかの夜で小箱の中身が鳴った気がした。

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