第59回:テーマ『窓』

タイトル:温度差


どれだけ霜が降りて北風が吹こうが、この温室は楽園のように暖かかった。

小ぶりであるも苔から小鳥までがこの熱帯植物園のドームの中にいる。まるでノアの方舟。嵐が来ても大丈夫だろう。

私は曇った眼鏡を拭きながらそこに入る。

植物園の年間パスポートを有効活用している。

小さな滝をぐるっと回り、サボテンの生える方へ向かうところ。

そこにはガラスの壁があるのだ。

そこは君との秘密の場所だった。名前も知らない。声も聞かない。でも、君は今日もそこにいた。

君は温度差で結露するガラスの壁にくまを描いていた。

私が横に書く「ただいま」の文字に気がつく。

君が指を止め、私を見た。

次に動いた先の文字は「まってたよ」


もう一度、私の眼鏡が曇った。

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