第53回:テーマ『歌』

タイトル:うたうたいたい


一度だけ目指したアーティストという夢は、高校の音楽の授業で儚く散った。

それから私は夢を諦め、ただ、楽器は弾けたから、バンドでギターを担当していた。

「このバンド、ボーカルではなく、ギターの声のが綺麗じゃないか、代えてみては」

そんな偉い人の声を断りながら、私は自分のギターを撫でた。


「大人たちもああ言ってるのに、なかなか譲らないね」

ボーカルがついに私に呟く。

「私は君のコーラスでいい」

「ダブルボーカルでさえ、認めないって頑固だね」

「いいの、私は君の声に惚れているの」

高校生のあの時から、だよ。私が負けを認めてからだよ。

君の、私に向けた歌を聴いたから。

今は、君のために。私は、君の歌を歌う。

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