カゲト
ジャス地区第3を出る時に俺は涙を拭い前を向いた。これから俺をヒーローのように扱ってくれる人のところに行くのだ。しっかりとしなくては。
金網だけの簡素な国境を超えて、ガール氷鉱夫団の採掘氷場へと向かう。ヒョウの国は俺の国と比べると人も工場も多い。聴き慣れない音や言葉が飛び交っていた。
そんな国の中でも唯一知っている友人の元へと俺は記憶を頼りに向かっていた。
ガール氷鉱夫団採掘氷場。その看板は以前よりもきれいになっている。中もそうだ。控え室のドアはもう軋みそうな見た目ではない。カゲトたちがより一層力を入れて作業をしているのだろう。
氷鉱夫たちが中で氷を削る音が聞こえる。ずいぶん氷鉱夫も多くなっていてカゲトを見つけるのは少し骨が折れた。しかし1番張り切っているツンツンの黒い髪の毛のカゲトをは見つけてしまえばかなり目立つ。
「なんだマイン、話って?困ってるなら俺たちが総力を上げてでも…」
「ち、違うんだカゲト…」
俺がピンチだと思ったらしいカゲトをは俺を迎え入れてくれた控え室の椅子から素早く立ち上がる。俺はそれを静止すると説明を始めた。氷の上へ旅に出る。そう伝えるとカゲトは落ち着くというよりカストルフさんのようにぽかんとしていた。
「まじかよ…マイン…恩返しする暇もなかったな…」
カゲトは深く椅子に沈み込むように上半身を倒し、額に手をついた。カゲトの気持ちはわかる。恩返ししたい、その気持ちはいろんな人に対して俺にも沢山ある。
「でも必ず帰ってくる。その時、何か困ってたら…頼むよ」
俺は笑いながらそう伝える。カゲトは頭を上げる。そして意を決したように語る。
「よし!…諦めない!そうマインに教わったんだ!恩返しは絶対するぞ⁈いいな?おかえりの会はガール氷鉱夫団がめちゃくちゃ盛大にやってやる!!」
カゲトは再び椅子から立ち上がり、半ばやけのようにそう言い放つ。出会った時は使命に追われていたカゲトとは違う。未来を見据えている。
「マイン、待ってるぞ。それまでに俺はガール氷鉱夫団をもっとデカく、強く…帰ってきたマインに負けねぇようにするぞ」
カゲトは腰からツルハシを抜いた。俺もツルハシを抜き、互いにコツンとかち合わせる。氷鉱夫と氷鉱夫の約束。カゲトは未来を開くために氷に向かい続けるだろう。俺は彼に負けないようにアイスポイントへの旅に一層気合を入れた。
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