勝利の仕方
両者の距離がゼロになつたのは膠着から10秒後、作戦が固まった頃だ。
ツドラルが横なぎにツルハシを振るうとマックスは体を倒して避ける。マックスが蹴り上げればツドラルはツルハシをかぶせるように防ぐ。
「ふはは!自分の腕さえ見えないな!」
「同感だ!!」
2人が攻撃を放つたびに周りの氷壁に傷が入り、石や土が舞った。最速の戦いはその場にとどまることに痺れを切らし、氷壁に沿って移動し始めた。間合いを取り取られ、隙を作り作られる。
思考と体がオーバーヒートするような戦いを繰り広げている2人の姿はとうに最初の接敵の位置から離れていた。
ツドラルは頭痛がし始めていた。一回も首から上に攻撃は食らっていない。思考を使いすぎたのだ。一瞬の判断の遅れは負けを意味する。
マックスが一瞬距離を取り足で空を切った。衝撃波がツドラルを襲う。形のない技はツドラルには防げない。
「ぬう……!」
ツドラルがいくら強かろうともそのリーチはツルハシの先まで。マックスはその外側から衝撃波を撃ちまくった。
「これで……これでどうだ!!!!」
だんだんと防御の姿勢が崩され、ツドラルの体に限界が訪れようとしていた。均衡が崩れようとしている。
「ぐぁっ…ぐっ………」
「はぁ…はぁ…いつまで耐えられるかな⁈」
ついにツドラルはを崩し膝をついた。マックスはその気を見逃さず手にツララを形成し、投げつける。迫るツララ。ツドラルはあらんかぎりの力を込めてツルハシを振るう。
いや、というより投げつけた。唸るような音を立てて手から射出されたツルハシ。ツララをかすめたツルハシはそのままツララを打ったマックスへと一直線だ。
「ぐぁっ…………」
マックスにはいきなりツドラルのリーチが伸びたように感じられた。振る速度の上昇を利用して手を離したツルハシが砲弾のような速度とパワーで放たれたとマックスが認識した時には遅かった。
「はぁ…はぁ…攻撃に完全に集中した時を待っていた………!」
「な………なるほどな…見事だ…」
マックスの体は倒れ変身は解かれる。青い鱗や皮膚は胸のあたりに収束しキューブとなった。
「ツドラル………と言ったか…君のような戦士を見たことがない………」
「こちとて同じだ………おかげでもう腕を上げるぐらいしかできん」
「だが…まだこちらの戦力は残っている………」
マックスは懐からキューブではなくなんらかのリモコン取り出した。ツドラルはそれをじっと見つめる。
「これは………氷弾キャノンのリモコンだ。ヒョウの国に依頼して約40作らせた。氷壁の上にあらかじめ配置しておいた………俺の指先一つで氷鉱夫を倒すことができるぞ…」
マックスは限界を超えた体力でありながらリモコンを押そうとする。しかし。
「………こちらの方が一手速い…!」
マックスがリモコンを作動させる前にツドラルが腰のポーチに隠し持っていたスイッチを押す。起動するや否や氷壁が2人のまえから爆音を立てて崩れ去った。
「な、なんだと⁈」
「キャノン砲はうちの斥候部隊から聞いていた………問題はいつどこで使ってくるかだ」
今度はツドラルが限界の近い体力を振り絞り立ち上がった。スイッチをマックスの前につきつけた。
「キャノン砲ほどの質量を俺らの国に持ち込めるか?否。使えるとしたら戦線のみ。ではヒョウの国の方から氷の壁を越えて打ち込んでくるか?否。俺たちの戦力配置も町並みもわからずには打ち込めない」
ツドラルはこの作戦を仕上げるために崩れ去ったヒョウの国との氷の壁に近づいた。向こう側にはヒョウの国の政治家や兵士がこちらを茫然と見つめている。
「使ってくるとしたら氷壁の上からだ。そしてこちらも撃たれるのは面白くない。だからこうした」
氷壁が崩れるということはキャノン砲たちも土台がなくなったということだ。使用不能だ。
「だが…自然の国境である氷壁が無ければお前たちの国に俺たちは戦力を………」
「いや…残る戦いを片付けたら外交が始まる。人による国境ができる。そしてしっかりとした外交のために俺たちの国はヒョウの国に負けていないというところを見せたかった」
ツドラルは崩れ去った氷壁の向こうに呼びかける。ツルハシを掲げて。
「氷鉱夫ツドラル!!流氷のリーダーたるマックスに勝利したものである!!」
ヒョウの国はツドラルが最強クラスの戦力とは知らない。しかし手を組んだマックスがヒョウの国の戦力で最強なのは知っている。
そのマックスが戦闘不能で、そばに立っているのはツルハシを掲げた知らない氷鉱夫。
「なるほど………もう攻める気も起きないだろうな」
「賭けだった。キャノン砲の無効化と氷壁の除去のタイミング、最強戦力との対峙が近いほど説得力がますからな」
マックスはその場に足を投げ出し少し笑う。作戦を逆に使われてしまったのだ。
ヒョウの国との国境たる氷壁が爆破されたがツドラルに挑もうとするものはいなかった。
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