同志
クリヤとの話が盛り上がり薄暗くなってきた頃ようやく三人で特訓の続きをするべく外へと向かった。控え室と外の寒暖差で風邪をひきそうだがうこけばすぐ暖かくなるだろう。
ツルハシを振るうクリヤはバランスがいいようで、ツルハシが少しもぶれてない。
風が吹く中ツルハシの振るう音がかき消されないように強く、正確に振るう。
完全に暗くなるまで振るうと俺もジーン先輩もクリヤも肩で息をするほど疲れていた。クリヤは自宅が近いらしく控え室に泊まるかと思ったがそのまま帰るというので送っていくことにした。
「暗いから気をつけてね、マイン、クリヤさんをよろしくね」
「はい」
「ごめんねーマイン」
2人で夜の商店街を抜けるため歩いて行くと店がいつもより出している品を少なくしている。そのおかげで店と店の間がかなり空いている。
ツララ塔は近々隣の国と接触することを国内に伝えているので避難できるようにしているのだ。
もちろん戦闘にならないことも考えられるが準備はしておいた方がいいのだ。
「閑散としてるねー」
「いつもはまだこの時間でもガヤガヤしてんのにな」
商店街を抜け、振り返るともうシャッターを閉めてる店も見られた。
クリヤの家は商店街を抜けてすぐに見つけることができたが、俺はその見た目に驚かされる。コンクリート造りの建物は十階建てと高く、各階から梯子が伸びている。
「斥候部隊は寮暮らしでね、いつでも出動できるようになってるんだ」
「氷鉱夫でもいろいろ違うんだな…」
クリヤと分かれ採掘氷場の控え室に戻った俺はジーン先輩が買ってきてくれた夕食を食べ、明日の採掘と特訓に備え早めに寝ることにした。
****
そのころ氷鉱夫のツドラルは少し採掘氷場に顔を出してから夜中にツララ塔のドアを潜った。中には多くのリーダー格氷鉱夫やトップクラスと言われる氷鉱夫が見受けられる。
「斥候の報告からも隣の国…流氷と手を組んだのは確実だ。そしてキャノン砲などの戦力が多く用意されているらしい…衝突の可能性が高い」
氷鉱夫たちはわかってはいたが情報が固まると表情が硬くなる。こちらは資源が少なく、軍も武器もない。鉄は建物や工場になっている。
そんな雰囲気を1人の氷鉱夫が手を叩いてリセットする。
「何くらい顔してやがる、いつもの氷鉱夫としての討伐をたくさんやるだけだ」
「そうだな、グレンの言う通りだ。氷鉱夫なら仕事の本分は製品を氷から取り出したり戦闘したりして人々を助けることだ…今回も人を守り助ける…なんら変わりない」
2人の言葉に鼓舞された者たち、やることを再確認した者たちは一層気持ちを高める。大切なものをそれぞれ胸に浮かべ、作戦を組み立てて行く。
こちらの指揮は氷鉱夫ツドラルが執ることになっていた。ツドラルは地図を床に広げ、皆にそれを囲ませた。
「敵が来る方向は絞れているか?」
「おそらく速攻を狙ってくるので包囲はもうおそらくないですね、くるとしたら国家の接触地点の左右1キロあたりでしょう、そこ中心に戦線を張りましょう」
「よし…それとコンプス地区の工場は今フル稼働で食料、救急の治療用具を作っている、数はおそらく氷鉱夫全員に配れば10日分だ」
ツドラルはこの防衛の陣形を着々と考えて行く。もちろんツドラルはプロの戦術家ではない、そもそも国内にそんな人はいない。しかし皆実績を見て彼について行っているのだ。
相手の戦力、戦術、それらを考慮してこちらの戦力を使う。
気づくと、ツララ塔の窓から光が差し込んでいた。それを皆くまのある目で見つめ、床の地図に目を戻した。ついに完成した戦術、戦線は不足の事態を何パターンも考えてあった。
「皆一日は休んでくれ、そして各々の採掘氷場の氷鉱夫に作戦を伝え…そして…」
それに続けてツドラルの呟いた言葉は優しいものだったしかし重みがある。その言葉は戦いを根本的に考え直さなくてはいけない可能性を孕んでいた。しかし言わなくてはならないと感じたのだ。
帰って行く氷鉱夫たちを横目にツドラルとグレンは後片付けをしていた。
「あの言葉は結構効くぜツドラル」
「ルーキーもいる。戦闘を苦手とする者もいるのだ、安全第一だからな…だから戦闘参加の意思確認を要請したのだ」
「わかってるぜ?お前が鉄仮面の下にあったけえモン持ってんのは」
ツドラルは少し後ろを向いて後片付けを続ける。
「ただ俺は…人のために戦うぞ」
ツドラルは片付けた地図を畳んでグレンにそう言ってさって行く。
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