新たな仲間

「暇だー」


喫茶店でツルハシという似つかわしくない格好で氷鉱夫斥候部隊のクリヤは甘ったるくしまくったコーヒー飲んでいる。採掘氷場に属していない彼女は後十日程度で流氷との戦いが迫ってるのは知っていたが特訓場所がない。朝にランニングは5キロぐらいやったし、ツルハシの素振り、鉱技のトレーニングをした後の午後は暇だ。


 隊長はツララ塔で仕事、そして友人の氷鉱夫たちは先10日は特訓づくしだ。コーヒーを飲み干すと胸につけていた通信機に連絡が入る。隊長からだ。


「もしもし隊長?あ、聞いてください、コーヒーにミルク10杯入れて飲んでるんです今」


「そうか、またカッコつけてブラック頼んだな。次の任務はもう流氷や隣国と接触するまではない、斥候部隊の氷鉱夫も各自トレーニングに励めというお達しだ」


「トレーニング場所ないですけど」




ツルハシを街中で振っていたら通報される。どこかの氷鉱夫に模擬戦を頼もうにも強そうな人たちはみんなツララ塔で流氷と隣国との接触に備えている。



 同い年で知り合いの強力な氷鉱夫にカフェリア地区のミルがいるがおそらく今ワンマン作業と特訓で忙しいと考えた。クリヤは特訓出来そうなところを探して街中をぶらつき始めた。


****


「ジーン先輩!後十日って事で特訓の成果見せ合いません?」



「いいね、マインからどうぞ」


先輩に促されて俺は氷の壁に向かい合った。作業後の氷の塊がそこらあるがそれを避けて俺はジーン先輩に特訓と成果を見せる。


「まずは氷鉱夫体術!」


 推進力のツルハシの力と水を凍らして足を氷壁にくっつく技を合わせて壁を走った。以前より長く走流ことができるようになった。走りながらツルハシも少しならふることができる。壁走りをコンプリートするとジーン先輩はにこやかに拍手をしてくれた。


 そして次の技に移行する。氷の壁からはなれ、推進力のツルハシを振り上げた。前へと推進する力、そして自分のダッシュを組み合わせてどんどん加速する。景色が前から後ろへ流れてあまりのスピードで周りが線に見える。氷の壁に近づいた時、ツルハシを推進力を発動したまま振るう。


腕を痛めそうだから相当練習した。ヒットのタイミングを加速の中で測るのはかなり難しかった。ツルハシが氷に加速の勢い付きであたる。


ビシッと決まった攻撃で氷の壁の半分近くを1メートルほど削ることができた。


「やった!どうですか先輩!」


先輩の方を振り向くと何やら微妙なかおをしている。俺に嫉妬する事はしてるという事はない、先輩もすごい技を編み出したのだから。なんでこんな顔をしているのか、振り向くとそれがわかった。


「いやー、気づかなかったっすね」


「氷の中のコオリクラブを掘り出したね」


コオリクラブ、腕に氷の塊を携えてそれを殴りつけてくる。4本の足は普通のカニと違って前進もできる。


 コオリクラブは足を高速で動かしてこちらに向かってきた。あたりの氷塊が足に弾かれ弾けていく。当たったらひとたまりもないだろう。


「うわっ!危ない!二人でいけますかね?」


「ちょっと通りすがりの人見てくるから引きつけといてくれるかいマイン?」


氷鉱夫は割とそこらへんにいる。不測の事態だと言えば強力してくれるだろう。先輩が呼んでくるまで俺はコオリクラブを引きつける。


「氷鉱夫体術!ターゲットマン!」


 寒さで体を震えさせる、それは熱を作る。その震えを強く出来たら一気に俺の体温は上がり周りにも少し熱が伝わる。


 寒い外気の中一点だけ気温が高いと相手は当然そこに注目する。


「こっちだ!」


推進力で加速させたツルハシをコオリクラブの氷塊の腕のかち合わせた。火花がちっておれの服を焦がす。かなりの威力だがこちらもパワーアップしているのだ、負けはしない。


2、3発撃ち合っているとあまりの衝撃で当たりの氷が砕ける。さすがに腕が痺れてくるがグッドタイミングで先輩が人を連れて戻ってくる。


「お待たせマイン、ぶらぶらしてた氷鉱夫クリヤさんだ!」


「はいどうもー!クリヤ18歳!好きなものは甘いものです!」


ぱっと見線の細いクリヤの毛髪は白く雪のようだ。半透明のツルハシを構えている。同い年なら風力発電所プロジェクトであっているはずだが見覚えがない。


「おれはマイン!同い年!おれも甘いのが好きだ!」


コオリクラブから後退しながらおれはジーン先輩とクリヤの元へと向かう。


「じゃあ俺が氷の玉で牽制するからマインとクリヤさんで挟撃してね」


「わかりました先輩!」


ジーン先輩はあたりの氷塊をいくつか投げ、それを四発ツルハシでうち、衝撃を固定した。衝撃の推進力を付加された氷塊はコオリクラブにまっすぐ弾丸のように向かっていく。




コオリクラブはそれをガードするために両腕の氷塊を体の前に持ってくる、腕の盾は頑強で氷の弾を防ぐがサイドは空いた。 


共に出たクリヤが半透明のツルハシで自分の装備の胸当てを叩いた。何事かと思うと彼女の姿は空間に溶けるように透明になった。


「な?!」


おれも驚きながらも鉱技を発動した。片方から加速を使い、音を置き去りにする速度と思うほど早くツルハシをふる。逆サイドからもツルハシの音が聞こえる。


 挟撃でコオリクラブは膝をつく。思わぬ相手に驚いたがスムーズに行った。 


 ツララ塔から人を呼び、遠くにコオリクラブを離すのはジーン先輩がやってくれた。おれはクリヤと控え室に案内し、散らかっているのを忘れていて恥を描くなどしていた。クリヤは散らかっているのを避けて椅子まで到達する俺と向かい合って座った。


「いやーマインの攻撃は強力だね!」


「クリヤもすごいな!透明になった!」


「そうそう、打ったものが透明になるの!確か10秒」


話をしているとふと忘れていたことを思い出した。


「そういや同い年ってことは風力発電所プロジェクトにいたのか?」


 あそこには確かルーキーは全員集められていたはずだ。俺は引っ張る立場として顔は極力見たがクリヤに見覚えがなかった。白い毛髪、半透明のツルハシ、と見たら忘れなさそうだ。


「いやー、いなかったな。私斥候部隊だもん」


 斥候部隊は氷鉱夫の中でも機動力、観察力、隠密に優れたものが抜粋される部隊だ。色々と話を聞きたいと思い報告をして戻ってきたジーン先輩も交えての反省会がそのあと始まった。

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